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論文要旨

Vol. 51, No. 4, pp. 358-379 (2000)

『流動性の罠と金融政策』
渡辺 努 (一橋大学経済研究所)

大規模な負の需要ショックに対応するために吊目短期金利をゼロまで下げているにもかかわらずも需要が上足している場合に、中央銀行は何ができるだろうか。この問いに答えるために、本稿では、吊目短期金利の非負制約を明示的に考慮しながら中央銀行の最適化問題を解く。最適な政策は、「ショックの発生移行のインフレ率や需要ギャップの累積値がある一定の水準に達するまでゼロ金利政策を続ける」とコミットすることであり、歴史依存性(history dependence)が重要な特徴である。このように、政策ラグを意図的に発生させることにより、足元の吊目長期金利が下がる一方、期待インフレ率は上昇するので、負の需要ショックの影響は和らげられる。日本銀行が1999年2月から2000年8月にかけて採用したゼロ金利政策は、(1)長めの金利への波及を当初から意図してきた。(2)ゼロ金利の継続期間を物価上昇率に関連づけながらコミットした、という点で最適解に近い性質を持つ、しかし、「デフレ懸念の払拭が展望できるまでゼロ金利を続ける」という日銀のコミットメントでは、ゼロ金利解除の条件が先見的(forward looking)な要素のみで決まっており、最適解のもつ歴史依存性が欠落している。典型的な最適解ではインフレ率が正の値まで上昇するのを待ってゼロ金利を解除するのに対して、日銀のコミットメントはインフレになる前の段階でゼロ金利を解除するため、ゼロ金利期間が短すぎるという難点がある。