HOME » 刊行物 » 経済研究

論文要旨

Vol. 50, No. 4, pp. 346-356 (1999)

『移行国の私有化と企業統治に関する一考察―チェコを中心に―』
池本 修一 (日本大学経済学部)

東欧革命から10年を経過し、移行国では国有企業私有化などが主要課題となっている。チェコでは、クラウス元首相が10年にわたって急進的改革を実施し、私有化に関してはクーポン私有化と呼ばれる、国民に対し株券交換可能な証券を配布する方法で国有資産の約半分を私有化した。しかしながら史上初めての経験であることや法制度の不備により、当初予期しなかった投資ファンドや金融機関がクーポンの過半数を獲得した。ところがこれら金融機関の株の40%近くを実は国家が保有しており、クーポン私有化によってチェコでは特殊な株式保有構造が形成された。こうして短期間に出現した多くの株式会社の企業統治構造は、急進改革派が想定していたアメリカ型がこれまでのところ90%近くを占めているが、金融機関の経営危機や、他のステイクホルダーまたは市場の圧力が西側に比較して大きくないため、結果的に経営者の権限が強くなっていると思われる。