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論文要旨

Vol. 50, No. 4, pp. 312-323 (1999)

『市場経済移行と世界経済への統合―国内改革と対外開放の相互作用―』
長岡 貞男 (一橋大学イノベーション研究センター)

中国、中欧、あるいはバルト諸国の経験は、貿易及び投資への対外開放が、市場経済移行に強力な力を発揮してきたことを示している。貿易機会は経済成長に必要な経済資源を拡大し、国際的な技術移転を促進し、長期的な視野に立った企業行動を促す。しかし、他方でロシアの経験は、企業への予算制約がソフトなままである場合、貿易と投資の自由化は、マクロ経済の安定や国内の貸出し市場を阻害する危険もあることを示している。旧計画経済国における貿易の自由化は国内の大幅な相対価格の変化をもたらすとともに、金融の対外自由化は国内貯蓄への国家の買い手独占の廃止の効果を大きくして、政府及び企業の調達金利を上昇させるからである。マクロ経済の安定化に成功していないロシアなどでは、当面、財政バランスの回復を最重点にしていく必要がある。但し、こうした国でも自由な貿易と投資体制への長期的なコミットメントは非常に重要であり、WTO加盟が、そのための一つの重要な手段を提供している。