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論文要旨

Vol. 50, No. 3, pp. 259-283 (1999)

『日本企業の人事制度―インセンティブ・メカニズムとその改革を中心に―』
都留 康 (一橋大学経済研究所), 守島 基博 (慶応義塾大学大学院経営 管理研究科), 奥西 好夫 (法政大学経営学部)

日本企業の人事制度をめぐる諸問題のうち、賃金格差、昇進格差、ならびに人事制度改革の現状とその規定要因を、東京都内450社に対する独自の企業調査に基づいて、理論的・実証的に分析した。実証分析の結果明らかになったのは以下の点である。(1)同一年齢従業員の賃金格差を大きくするのは、能力・業績のバラツキの大きさやその観測容易制よりも、むしろ昇進格差の大きさや人事考課結果の本人開示度である。(2)昇進格差を大きくするのは、職能資格制度の廃止など企業内での人材開発方針の弱まり、出向者比率の低さなど人材フローに対する制約要因の強さである。(3)こうした賃金・昇進格差の背後にある人事制度の改革に関しては、規模が大きく事務系従業員の比率が高い企業で改革が進むものの、中高年の出向比率の高い企業では改革意欲が低下するこたが確認された。以上の分析結果から、日本企業の人事制度改革は、今のところ、昇進格差に対する制約要因が根強いなかで、賃金格差の拡大を志向した漸進的なものとなっている。