HOME » 刊行物 » 経済研究

論文要旨

Vol. 50, No. 2, pp. 169-187 (1999)

『現代中国製糸業の発展とそれを支えた要因―工場調査に基づく技術水準の検討―』
清川 雪彦 (一橋大学経済研究所)

本稿は、これまで「幻の産業」としてほとんど看過されてきた現代中国の製糸業について、その全貌を明らかにするとともに、近年の急速な成長の要因を解明しようとするものである。まず数少ないマクロ・データにより、停滞から成長への転換点をはじめ、主要蚕糸業地帯の変遷・交代や国有製糸工場部門の相対的地位の低下等々、製糸業全体の動向ならびにその特徴が把握されている。
製糸業の場合、その急速な成長は「文化大革命」期さなかの70年前後にスタートした。その成長を支えた要因は、1つには農村部における多数の中小製糸工場の新設であり、また2つには新鋭多条繰糸機の普及であった。
とくに後者の場合、関連する周辺機器の技術革新とも相俟って、徐々にその性能を改善し、工場機械設備一般の生産性を大きく向上させた。製糸業の急速な成長は、こうした原料繭の供給増や生糸輸出の増大を上まわるペースでの生産能力の拡大に負うところが大(生産設備先導型成長)であったことが示されている。その際、多条繰糸機の生産性や労働集約性に関するデータは、我々自身の工場調査によるものを論拠とし、その生産能力が推定されている。