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現代経済研究部門

現代経済研究部門は現代の日本および世界が直面する経済問題を理論・実証両面から研究し、これを解決するために必要な経済システムの改革と経済政策を構想することを目的としている。 本部門の主な研究テーマは次の四つである。

現代経済分析

1990年代初のバブル崩壊以降、日本経済は大きな曲がり角に立たされている。バブル崩壊を契機として、企業は過大な債務の解消を図る一方、家計は将来所得の不確実性から貯蓄性向を一段と高めた。このため、90年代を通じて、貯蓄超過傾向が続き、経済は著しく停滞した。特に、97年秋以降は、金融部門において、不良債権の累増を原因とする金融危機が発生し、クレジットクランチへと拡大していった。こうした中で、政府は財政発動により景気の下支えを図る一方、銀行部門に対しては公的資金を注入した。また日銀は、短期金利をゼロまで下げる、いわゆるゼロ金利政策を採り、積極的な流動性供給を行った。
こうした施策の効果もあって、2000年に入り、経済の状況は改善し、デフレ状態から脱却しつつある。しかし、企業の過剰債務、銀行の不良債権、国債の累増など、大きな問題は現在に至っても解決されたとはいえない。こうした中で、現代経済研究においては、以下の点について、90年代以降の経済現象を実証的に分析すると同時に、そうした分析に基づいて適切な処方箋を提示することが求められている。

  1. 地価や株価などの資産価格の変動が実体経済に影響を及ぼすメカニズムについての研究が必要である。 特に、銀行の貸出行動、企業の借入れ行動など経済の金融的な側面がどのように関わっているかは重要な研究テーマである。
  2. 大規模な負の需要ショックが発生した場合の政策対応についての検討が必要である。例えば、減税や公共投資拡大などの財政発動の有効性、金融仲介が麻痺している状況下での金融緩和の効果などについて、90年代の日本経済の経験を踏まえ、実証的な分析が望まれる。
  3. 日本経済が直面する最大の課題である、高齢化社会への移行については、公的年金などの社会保障をどのようにデザインするかが重要なトピックである。また、労働力不足にどう対処するかという点については、IT(情報技術)革命の推進により、労働生産性をどこまで高めることができるか、そのためにはどのような施策が必要か、といった点について研究が必要である。

金融経済

この研究テーマは、1. 日本の金融に関する実証的研究、2. 金融政策、金融制度、金融発展に関する国際比較、3. 金融政策に関する理論的、実証的研究、4. 国際金融・通貨に関する研究、をカバーする。1990年代後半の内外金融市場におけるいくつかの現象は、金融経済研究の新たな方向性を示唆している。

  1. 国内では、97年秋以降、銀行や証券会社が相次いで破綻した。金融機関の破綻は、クレジットクランチなどを通じて実体経済にも重大な影響を与えた。こうした経験を踏まえ、システミック・リスクのメカニズム、流動資産の役割、中央銀行の最後の貸し手機能、銀行に対するプルーデンス規制のあり方、預金者保護、借り手保護のあり方、などについて、理論・実証両面からの研究が必要とされている。
  2. 金融政策の面では、99年2月以降、名目短期金利が実質的をゼロにする、いわゆるゼロ金利政策が採られてきた。このような流動性の罠に陥るのを回避するにはどのような対応が必要か、罠に落ちてしまったときにはどう対処すべきか、といった点についての検討が望まれている。
  3. グローバル金融の面では、97年夏のタイバーツ下落に端を発する東アジアの通貨・金融危機、ロシア・ブラジルの通貨危機、邦銀に対するジャパンプレミアムの発生など、90年代後半における一連の経済現象について理解を深めることが重要である。具体的には、金融のグローバル化の下での通貨・金融危機の発生メカニズムや、危機を未然に防ぐために必要な制度的な枠組み、危機発生後の国際的な協調体制のあり方などについて、現実に発生している事象を念頭におきつつ、理論・実証の両面から検討を加える必要がある。
  4. 国際通貨制度に関しては、東アジア諸国における新たな通貨・金融制度が重要な研究課題である。特に、ドルに代わるノミナル・アンカーをいかにして創出するかが重要な論点であり、通貨制度の選択も、この視点から論じる必要がある。また、東アジアにおける円の使用(円の国際化) についても、実証的な検討が必要である。

国際経済

第二次大戦末期以降に米国が中心になって構想したブレトンウッズ体制、GATT、世銀等の国際経済レジームは、戦後の西側諸国の経済発展を支えるうえで予想外の成功を収めたが、企業活動のグローバル化、東西冷戦の終結にともなう中国・ロシア等の西側市場への参加、米国経済が世界経済に占める比重の低下、自由貿易協定締結国の増加、サービス貿易の拡大等により全面的な変革の時期にある。また日本の対外経済関係も、人口の高齢化、対外・対内直接投資の急増、東アジア諸国の工業化、等によって急速に変化しつつある。
本研究科目は望ましい国際経済レジームと日本が取るべき国際経済政策を構想するため、以下のような諸問題について理論・実証両面で研究を進める。

  1. 企業活動のグローバル化が日本経済に与える影響
  2. 人口高齢化が貯蓄率や要素賦存比率の変化を通じて貿易構造や国際収支構造に与える影響
  3. 自由貿易協定の利益と問題点
  4. サービス貿易とWTO
  5. 移行経済と国際経済レジーム
  6. 経済成長と比較優位構造変化の関係

公共経済

本研究科目では厚生主義的伝統に依拠した伝統的な規範経済理論のフレームワークを乗り越えて、非厚生主義的な規範的経済理論の基礎付けを行う。その事によって、現実の経済政策においてより関連深い項目、例えば、

(1) 社会保障制度の構成において、どこまでを社会的補償の範疇とし、どこまでを個人的責任の範疇とすべきか?
(2) 新たな制度・機構を導入する社会的選択のプロセスにおいて、特定の利害関係者間の力関係に左右される事なく不偏的な制度を選択する為の衡平的な手続きはいかにあるべきか?
(3) 新たな制度・機構の導入に伴い発生する個人的・集団的諸権利を調整しつつ、いかに社会的福祉の向上を達成するか?

等の問題に関する具体的提言のためのより確固とした理論的基礎を提供できよう。この研究課題に体系的に取り組むために、本研究科目の主要な研究テーマは次のような課題から構成されている。

  1. 自由主義的権利の配分に関する社会的意思決定メカニズムの理論的特徴づけ
  2. 純粋手続き的正義論に基づく資源配分メカニズムの理論的特徴づけ
  3. 「責任と補償」の観点に基づく社会保障制度の構成に関する理論的基礎付け
  4. GATT/WTO機構・知的財産権制度と紛争解決メカニズムの分析
  5. 共通費用配分問題に関する効率性基準と機会の衡平性基準に基づく理論的分析
  6. 日本の産業政策・競争政策・通商政策: 批判的検討と政策提言

各所員の研究課題

伍暁鷹

  1. 中国経済成長のパフォーマンスを評価するデータベースの構築と再検討
  2. 購買力平価に基づく中国産業発展の国際比較
  3. 中国経済発展における政府の役割と資源配分
  4. 1800 年代後半以降の中国数量経済史研究

植杉威一郎

  1. 企業- 金融機関関係に関する分析
  2. 貸出市場への政府介入の効果に関する分析
  3. 企業間ネットワークと産業集積との関係に関する分析
  4. 企業間ネットワークを通じたショックの伝播に関する分析

後藤玲子

  1. 要因連関と構造分析を通じたケイパビリティ・アプローチの操作的定式化――厚生経済学の新たな情報的基礎――
  2. アロー、ロールズ、センの理論的・方法的枠組みの再検討を通じた規範的経済学の構築
  3. 実質的自由、差異の平等そして公共的相互性にもとづく福祉国家の再構想

深尾京司

  1. イノベーションと全要素生産性:産業・企業レベルデータによる分析
  2. 日本の地域間経済格差の長期分析(1600年-2008年)
  3. 日本の超長期経済統計の推計と経済発展の国際比較
  4. オフショアリング・バイアスの計測
  5. 生産の海外移転と日本国内の雇用・生産性に関する研究

吉原直毅

  1. 非厚生主義的経済学の基礎理論: 非厚生主義的価値基準に基づく政策の社会的意思決定とメカニズム・デザイン
  2. 労働搾取の公理的分析: 労働搾取や窮乏性などの観点からの市場経済の評価分析
  3. 多元的政治空間を持つ政治経済的競争ゲームの理論的研究
  4. 応用厚生経済学:モラル・モチベーションを有する個人が居る社会での公共的意思決定