4.おわりに:途上国への資本流入を規定するその他の要因

 この論文では、資本が豊かな国から貧しい国に流れているか否か、十分に流れていないとすればそれはなぜかについて考察してきた。論文の前半では第二次大戦前と後それぞれについて、高所得国グループから途上国への資本移動を概観した。後半では、資本移動を決定するうえで人的資本が重要であるとした Lucas の推測について検討し、戦後のクロス・カントリーデータについてこの推測を裏付ける結果を得た。

 途上国への資本移動が少ない原因としては、これまで議論した人的資本、借入国の返済拒否の可能性、途上国の対内直接投資に対する規制、以外にも幾つかの候補が考えられることを確認しておこう。たとえば国際経済学で良く知られているように、各国の要素価格を均等化するうえで国際資本移動と貿易は代替的な機能をはたす。17 資本が希少な国へ資本が流入しなくても、この国が労働集約的な財の生産に特化すれば、要素価格は均等化し資本移動の誘因は低下する。しかしながら、貿易によって現実に要素価格が 100%均等化しているとはとても考えられない。18 このことは、途上国から高いコストを払って不法入国してでも先進国で就労しようとする人々が多いことからも確認できる。また、途上国では所有権が確立していなかったり (Tornell and Velasco 1992)、金融仲介機能が未発達なため、有望な投資機会があっても投資が行なわれない可能性がある。これらの要因について検討することは今後の課題としたい。