[1]指標接近法

 

 (1) Engの推計法

 Eng( 1992 )の推計法の概略を示そう。この推計の基準となるGVAは1983年の17セクターのGVAである。Engは、1983年を採用した理由としてIO表の推計値と比較したとき、GDPの過小推計( これは主としてサービス業セクターGDPの過小推計によるものと思われる )の程度が一番小さいとみられることをあげている。

 

 サービス業セクターは、次の各セクターからなる。

 

          公益部門 ( utilitiesa )

          建設業 ( construction )

          商業 ( trade )

          運輸通信 ( transportation and communication )

          銀行金融サービス ( banking and financial services )

          持家レント ( housing )

          行政サービス防衛 ( public and ministration and defense )

          その他サービス業 ( other services )

 

 各セクターごとの指標は次のようである。

公益部門 ; 1880−1939の期間は 0.50 × ( 電力消費 ) + 0.50 ( ガス消費 )、

1940−1983年の期間は1.00 × ( 電力消費 )。

建設 ; 0.75 × ( セメントの生産および輸入−輸出 ) + 0.25 × 林業生産

商業 ; 0.30 × ( 食用作物 )+ 0.70 ×( 畜産物 ) + 0.70 × ( 換金作物 ) + 1.00 ( エステート作物 ) + 0.90 × ( 水産物 ) + 0.80 × ( 林業生産 ) +1.00 ( 製造業生産 ) + 1.00 × ( 輸入財 )。なお Eng ( 1992 ) p.364の food products は food crops の誤りと思われる。

運輸通信 ; 1880−1942の期間は0.175 × ( 鉄道貨物輸送 ) + 0.175 × ( 鉄道旅客輸送 ) + 0.25( 登録トラックおよびバス台数 ) + 0.20 ( 船舶輸送能力ないし輸送量 ) + 0.15 × ( 郵便物数 ) + 0.05 × ( 電話回線数 )。1943−1983の期間は 0.05 × ( 鉄道貨物輸送 ) + 0.05 × ( 鉄道旅客輸送 ) + 0.05 × ( 登録トラックおよびバス台数 ) + 0.20 ( 船舶輸送能力ないし輸送量 )+ 0.15 × ( 郵便物数 ) + 0.05 ( 電話回線数 )。

銀行金融サービス ; 0.50 × ( 商業部門GVA ) + 0.50 × ( 実質通貨流通額 )

持家レント ; 0.50 × ( 人口 ) + 0.50 × ( 1人当たりGVA、ただし、GVAから持家レント、行政サービス防衛、その他サービス業および石油ガスを除く )

行政サービス防衛 ; 粗財政支出/WPI

その他サービス業 ; 0.25 × ( 学校生徒 ) + 0.25 × ( 人口 ) + 0.50 × ( その他サービス業および石油・ガスを除くGVA )。

 Eng( 1992 )のサービス業推定法は、こうして作ったセクターごとの指標と1983年のセクターごとのGVAの比率を機械的に過去に外押したものと思われる。しかし、Engの方法は2つの問題点をもつ。第一は、指標にとり入れられる変数の選択である。それぞれのセクターできびしいデータの制約の下に変数が選択されているわけであるが、それでもまだいくつか改良の余地がありそうである。たとえば、鉄道輸送については旅客人数と貨物トン数のデータが用いられているようであるが、CEI, Vol.9 には train kilometer のデータが存在する。この情報を利用することで精度の向上する可能性がある。また銀行業については、通貨量が何故銀行の附加価値に関係するのかについて根拠が十分でない。CEI, Vol.6 から銀行の生産活動の通常の指標である貸出、預金のデータを得ることができるのであり、これを利用する方がより正統的であろう。さらに商業のGVAについては、運輸通信の進歩・展開の効果や貨幣経済化の効果を考慮せず、一定のウェイトを仮定していることに疑問の余地がある。

 第二にの問題点として、Engの方法は指標とGVAの間に比例的関連を仮定していることが指摘されよう。すなわち、一次式の関係において定数項の部分がゼロであることがあらかじめ仮定されていることになる。もし、そうでなく真の定数項が正であったなら、指標の成長局面では成長率が過大に、下降局面ではマイナスの成長率が過大に推定されることになる。( 定数項が負のばあいは逆である。)

   

 

 (2) 戦前期日本の長期統計による吟味

 日本の戦前期については、一応信頼しうるサービス業GVAデータを利用することがでくる。それゆえ戦前期日本のデータによってEng指標接近法の変数の選定と指標のつくり方についてのチェックを行うことができる。日本の戦前期とインドネシアの戦前期では政治経済体制や発展段階がかなり異なるが、両者ともに発展途上国経済であり、このチェックがそれなりの意味をもつものと思われる。

 

 (a) 鉄道業のGVA

 Eng( 1992 )は鉄道業だけでなく、自動車輸送・海運・通信等を含んだ運輸通信業全体を推計対象としているが、ここでは戦前日本の鉄道業、それも資料の制約から国鉄に限って検討を行う。国鉄のGVAについては南 ( 1965 )に 『 鉄道統計年報 』 や 『 国有鉄道陸運統計 』 などに依拠した正確な計算値が利用可能である。この国鉄のGVAをいかなる指標によって、どのような形で近似することが可能かを考えよう。次のような変数をとる。カッコ内は資料名と単位。

 この国鉄のGVAをいかなる指標によってどのような形で近似することが可能であるかを考えよう。次のような変数をとる。なおカッコ内は資料名と単位である。

 被説明変数

        y 国鉄の粗付加価値額/鉄道業デフレーター [ 国鉄の粗付加価値額は南( 1965 )第1表、千円単位。鉄道業デフレーターは大川他( 1974 )第31表 ]

 説明変数

        x1 国鉄旅客輸送人員 [ 鉄道院( 省 )『 鉄道統計資料 』各年度版、千人 ]

        x2 国鉄輸送貨物 [ 同、千トン ]

        x3 国鉄旅客輸送人キロ [ 南( 1965 )第11表、100万人キロ ]

        x4 国鉄貨物輸送トンキロ [ 南( 1965 )第12表、100万トンキロ ]

 

 これらの変数の年次データによって、次の4式の回帰分析を行った。期間は1915ー36年であり、OLSによる。

 

        @ y =α+β1( x1 + x2

        A y =α+β1 x1+β2 x2

        B y =α+β1 x3+β3 x4

        C y =α+β1 x3+β2 x32+β3 x4+β4 x42

 分析結果は表1に示されている。第@式の回帰は Eng( 1992 )の指標接近法に最も近いかたちである。すなわち旅客人員( x1 )と貨物トン数( x2 )を同一ウェイトで一次結合し、それと GVA の関係をみている。 x1+ x2 は正で有意性が高い。また説明力もきわめて高い。しかしながら、Eng の仮定とことなって明らかに定数項は正で有意な値をとっている。このことは定数項をゼロと仮定する Eng の方法では鉄道業の GVA の成長が過大評価される可能性のあることを示唆している。

 次に変数の選定。旅客人員や輸送トン数はバラバラにして変数に用いたばあいで も有意な説明力を持つ( A )。しかし単なる輸送量だけでなく、それに輸送距離を加味した2変数( x3とx4 )を用いるとB式では x4 が有意でない。輸送キロの GVA への影響は逓減的である可能性があるためC式の推計が行われた。次に変数の選定についてであるが、旅客人員や輸送貨物トン数は、それぞれを同一ウェイトで一次結合させずとも有意な説明力をもつ( 第A式 )。しかし単なる輸送量だけでなく輸送距離を加味した2変数( x3ならびにx4 )を用いると、第B式で x4 が有意でない。輸送距離の GVA への影響が逓減的である可能性もあるため第C式の推計をおこなったが、いずれの変数でも有意性が低い。輸送距離を加味しない、単なる輸送量の方が、加味した変数と比較して GVA とより強い統計的関係にあると判断できよう。

 

 

 (b) 銀行業のGVA

ここでは他の金融業は除いて銀行業に限定して検討を行なう。

戦前日本の銀行業 GVA 推計としては土方推計( 土方( 1933 ) )がある。 『 長期経済統計 』 の推計では銀行業 GVA は卸小売業やその他金融業、接客業、流通業などとセットで商業サービス業( B )として推計されているので( 大川他( 1974 ) )、銀行業のみの数字は分離可能ではない。

 土方推計は1919〜30年に関して銀行業の GVA を求めている。ただしこの推計も、@費用項目である銀行業被傭者の所得として、日銀の平均給与( 6ヵ月分の賞与支払いの1.5倍と仮定 )をとっているため過大評価の可能性がある、A当期純益金ではなく前期繰越金を含んでいる可能性がある、などの問題をふくんでいる。しかしながら、さしあたっては、@、Aの問題を改善することは容易ではないので本稿の推計では土方推計値を用いることにする。

 なお1931〜40年については、各年次の 『 銀行局年報 』 を用いて、特別銀行( 日本銀行、横浜正金銀行、北海道拓殖銀行、農工銀行、日本興業銀行、日本勧業銀行 )、普通銀行、貯蓄銀行および外国銀行日本支店について、当期純益金と人件費を推計することが可能である( 推計方法は補論を参照されたい )。本節の分析ではそれらの合計値を銀行業 GVA とした。

 以上の準備のもとに次のように変数を定めた。

 

 被説明変数

    y   銀行業GVA/商業サービス業( B )デフレーター [ 銀行業GVAは千円単位。
       商業サービス業( B )デフレーターは大川他( 1974 )第14表 ]

 

 説明変数

      ( 商業サービス業 ( B )GVA−銀行業GVA )/商業サービス業( B )デフレーター

        [ 商業サービス業( B )GVAは大川他( 1974 )第14表掲載の100万円単位の数値に1000を乗じ、
        千円単位に置き換えたものを用いた ]

      預金/GNPデフレーター [ 預金は藤野・寺西による推計値( 千円単位 )
        GNPデフレーターは大川他( 1974 )第30表 ]

      貸出金/GNPデフレーター [ 貸出金は藤野・寺西による推計値( 千円単位 ) ]

    D   ダミー変数( 1919〜30年=1、31〜40年=0 )

    T   タイムトレンド

 

 これらの変数を用いて以下の3式を回帰した。

    @y=α+β( x+x

    Ay=α+β+β

    BLny=α+βLNx+βLNx

 分析結果は表2に示されているが、そこから次のことがいえよう。

 第@式はEng( 1992 )の方法に類似したケースである。ただしここでは通貨量ではなく預金を第2の変数として用いている。 x と x の一次結合は正で有意である。ここでも定数項はきわめて大きい値で有意となっており、定数項をゼロと仮定するEng( 1992 )の仮定は支持されない。A、B式であるが、A式の x の有意性は劣るものの、良好な推計結果が得られている。預金の handling cost および貸出情報の生産コストという現代金融論の視点からみてこれら2式の形での推計がインドネシアに適用するにあたっても適切であると思われる。

また、@〜Bの全ての推計式でダミー変数が負の値をとっていることは注目される。これは1920年代における銀行業の不振、特に都市の中規模銀行における損失の発生の影響によるものと思われる。土方推計における賃金部分の過大推計の可能性にもかかわらず、こうした結果がでたことは興味深い。

 

(c) 商業のGVA

 戦前日本の商業のGVA推計値は必ずしも満足すべきものでない。しかしその問題点を認めた上で暫定的な見当をつけるため以下のような分析をおこなった。

 大川他( 1974 )では上述のように、商業サービス業( B )に本来の卸小売業( 物品販売業 )の他に銀行を含む金融業と接客業などの狭義サービス業が含まれている。ここではとりあえず(2)で用いた銀行業GVAを除去したGVAに関して分析を行う。

次のように変数を定める。

 

 被説明変数

    y   ( 商業サービス業( B )GVA−銀行業GVA )/デフレーター
        [ 商業サービス業( B )GVAは大川他( 1974 )第14表( 100万円単位 )。

        銀行業GVAは(2)の推計値を1000で除し、100万円単位に置き換えた数値を用いた。
        また、商業サービス業( B )デフレーターは大川他( 1974 )第14表 ]

 

 説明変数

      0.7×農林水産業実質GDP+1.0×鉱工業実質GDP+0.1×実質輸入

        [ 農林水産業実質GDP、鉱工業実質GDPは大川他( 1974 )第25表、実質輸入は第18表、
        いずれも100万円単位 ]

      貨幣供給量/ GNPデフレーター [ 貨幣供給量は藤野・寺西による推計値(千円単位) ]

      国鉄・地方鉄道・軌道の営業キロ数 [ 南( 1965 )第17表 ]

 

 次の3式の推計を行なった。

    @+β

    Ay=α+β+β

    By=α+(β+β+β)x

 

 分析結果は表3に示されている。第@式の結果であるが、 x はEng( 1992 )で用いられたものと類似の指標であり正に有意である。しかしその一方で定数項もまた正に有意に効いており、ここでもEng( 1992 )の推計が商業活動の成長を過大評価している可能性を指摘することができる。

 A式の x は、マーケッティングの規模の経済をみるための変数であり、Bにおける x と x はそれぞれ貨幣経済化の影響と交通整備が市場経済の拡大にどのような影響を与えるかを把握するための変数である。ただしそのような配慮の上で回帰分析を行なったものの、A、Bの双方ともに良好な推計結果を得ることはできなかった。

   

 

 (3)インドネシアの戦前期の経済成長とサービス業部門

 Eng( 1992 )はインドネシアの戦前期( 1900〜1929年 )における経済成長に関してきわめて魅力的な仮定を提示した。すなわち、彼は独自のGDPの推計値を根拠に次の2点を主張した。

 (i) 植民地支配の下でインドネシアの在来部門の生産生活水準が停滞したという通説は適切でない。1900〜1929年においてインドネシアの在来的な生産と生活水準は着実に向上した。

 (ii) 在来部門の成長はそれ以前における国内交通通信網の整備にもとづく国内交易の拡大のもとづくものであった。

 これら2つの仮説については既に Booth ( 1995 )が注意深い吟味を行っている。 Booth の主張は次の3点である。

 (i) 植民地支配の下でインドネシアの在来部門が停滞したという「通説」は存在しない。1990年以降在来部門が成長したことは多くの研究者が認めている。

 (ii) 1900年以降における在来部門の生産の拡大は small holder agriculture の food crop の生産拡大と輸出向け cash crop の生産拡大にもとづくものであった。

 (iii) GDPの推計値と通説で考えられている生活水準の動きの“実感”は乖離がある。第一に1900年以降在来部門の生産の拡大は必ずしも同じスピードでの生活水準の向上をもたらしたとは思えない。交易条件の悪化、階級間人種間の分配の変化、政治社会的変動の影響等から生活水準の向上はGDPの成長にくらべてゆるやかであった可能性がある。  第二に戦中戦後のGDPの動きにみられるほど、大幅かつ長期( 1940〜1970 )の生活水準の落ちこみがあったことは信じがたい。

 Booth はあえてEngのGDP推計の検討には立ちいっていない。しかし(ii)と(iii)の批判はGDP推計のある部分についての再吟味を要請しているように思われる。 Booth のコメントを参照して考えると、次の2点がクルーシャルであると思われる。すなわち、(a)国内交通網整備の影響が過大にでていないか、および(b)それは1900〜1930年のGDPの成長の過大評価につながっていないか、の2点である。さきにわれわれは、鉄道業のGVAの検討で、Engの仮定した定数項をゼロとするモデルは適切でない可能性があり、そのばあいは成長率が過大評価される可能性のあることを指摘した。いま表4によってGDPの動きをみると運輸通信のGDPがこの期間に急成長していることがわかる。また、この成長が1900〜1913年間の成長率の19.9%、1913〜1929年の成長率の20.9%を説明していることがわかる。しかしながら、この運輸通信のGDPの値は明らかに不自然である。それは、商業のGDPと運輸通信業のGDPの相対的大きさが異常とみられることである。表5によると1900年において後者は前者の 32% ( =930/1225 ) でしかないのに対し1929年においては 84% ( =2157/2573 ) に達していることがわかる。しかしながら、このような大きな運輸通信のGDP share は他のデータや他の年次では見られないことである。第一に、BPS ”National Income of Indonesia 1960〜1968” によると1960年の運輸通信業のGDP 14.5 billion ルピア、これに対し商業のGDPは 55.6 billion ルピアである。前者は後者の26.1%である。またIDE ”Input-output table Indonesia 1971”によると1971年のGDPは運輸通信業 329billion ルピア、商業は 754billion ルピアである。このばあい前者は後者の43.6%である。

 第二に、後掲の表8におけるPolakデータと1930年のセンサスデータを用いたGDP推計値では、1930年において運輸通信業の総所得は 148( 百万Fl ),商業の総所得は 411( 百万Fl )となる。すなわち運輸通信業の当年価格所得は商業の36%でしかない。

 定数項をゼロと仮定するEngのサービス業GVA推計は運輸通信業の1900〜1929年におけるGVA成長を大幅に過大に推計している可能性がある。製造業および農業のGVAではこうしたバイアスは避けられており、したがってそれらの生産に比例的と仮定した商業のGVAもこの種のバイアスは小さいものと考えられる。それゆえEngの推計では主として運輸通信業の成長が過大に評価され、これがGDP全体の推定成長率を高める効果をもったと考えられる。1940年代および50年代のGDPの落ちこみも同様の理由から過大に評価されている可能性がある。

 ちなみに同様に定数項ゼロの仮定をおいた銀行業についても1910年代については成長率が過少に20年代については過大に評価されていると思われる。いま、CEI, Vol. 6によって通貨量と銀行の liabilities をとると次のようになる。( 単位;NICrt f million )

 
  1910  1920  1930 
 通貨残高
 4大銀行 liabilities    
202
120
545
571
519
352

 

すなわち、1920年代において4大銀行の liabilities したがってその活動規模は大幅に縮小しているのである。しかるに生産量と通貨量を用いたEngの推計では、銀行金融部門のGDPは増加しているという結果になっている。また1910年代銀行業の活動は liabilities の値でみる限り、急激に拡大したと思われる。Engの推計では、この点はとらえられていないようである。

   

 

 (4) Engによる運輸通信業GDP推計法の吟味

 Engによる運輸通信業のGVAの推計は index 接近法によており、その推計値はバイアスをもっている可能性が高い。しかしながら、残念なことにEngの推計方法の説明が不十分であるためこの推計方法を正確にする reproduce することはできない。これはたとえば(i) shipping capacity 等々の定義範囲データが全く示されていない。(ii) mail item, telephone connection などの単位が不明、(iii) passenger care bus のいずれのデータを用いたのか必ずしも定かでない等の理由になる。以下では、可能な範囲内でEng類似の index をつくり、その推計のバイアスの可能性を指摘する。

 表6の第1列はインドネシア公式統計 Pendapatan Nasional Indonesia ( PNI )による運輸通信業のGDP( GVA )である。1960〜68はPNI 1960〜1968よる1960年価格のGDP、1969-72はPNI 1969〜73による1960年価格による実質GDPである。 1973〜78 および 1979〜1983 は、それぞれPNI( main tables ) 1973〜79 およびPNI( main tables ) 1979〜83 からとられた1973年価格による実質GDPである。単位はいずれも billion ルピア。また2列〜6列は Statistical Pocketbook of Indonesia および Statistical Yearbook of Indonesia の各年版によりまた運輸通信業の生産能力と生産活動に関する諸指標である。truck および bus は登録台数であり、1977年のデータが上記の資料からは不明であるため直接補完した。 railway freight および railway passengers はそれぞれ100トンおよび百万人単位である。1974,75の freight および passengerは直接補完で求められた。mail item は内国郵便物( 書留および非書留 )であり、単位は1000個。1973〜75年のデータが直接補完で求められた。 telephone connection は長距離および国際通話の call数である。単位は1000回。

 さて、Engは戦後1943〜83の運輸通信業のGVA指標として、railway freight, railway passengers, trucks and buses ( 1000台 ), index of shipping ( 1958〜83 total shipping capacity, 1943〜57 registered shipping freight, domestic and international ), mail items, telephone connections のそれぞれ0.05, 0.05, 0.50, 0.20, 0.15, 0.05のウェイトをつけて、指標を作成している。しかしながら、われわれの手持ちのデータでは shipping capacity のコンシステントなデータをつくることはきわめてむずかしく、Engはその定義範囲も明確にしていない。また mail items と telephone connection の単位も不明であり、Engと同じ指標をつくることは不可能であった。このためわれわれは、truck( 1000台 )、buses( 千台 )、railway freight, railway passenger にそれぞれ0.25のウェイトをつけた8列のような疑似Eng指標をつくった。

 被説明変数として第1列のGDP、説明変数として X1 = 疑似Eng指標、 X2 =デフレーターのちがいをとらえるダミー( 1960〜72 = 0、1973〜83 = 1 )をとったOLSによる回帰分析を行った。結果は表7のとおりである。定数項、ダミー、Eng指標いずれも有意であり、説明力も高い。

 上記の回帰分析の結果は図1のように図示できるであろう。このばあい原点と1983年値を結んだ直線で推計したEngの推計値は明らかに指標の増加局面においては成長を過大評価していることになる。

   

 

 (5) 回帰を用いた戦前期運輸通信業GDPの推計

 上記の戦後期に関する回帰結果を用いて、戦前の運輸通信業のGDPを推計することを試みよう。戦後のGDPデータは1960〜1972年の1960年価格によるものと1973〜83年の1973年価格によるものからなる。以下では戦前の方がカバレージなどの点で戦前に類似しているものと考える。

 表8表6にならって戦前期のデータから疑似Eng指標をつくったものである。データは全て Changing Economy of Indonesia, Vol. 9, transposrt 1819〜1940 から得た。この指標を表7の推計結果に適用して、すなわち - 284.04 + 0.087764 x Eng指標という計算を行うことにより、(3)列の1960年価格の戦前期GDPの推計値を得ることができる。さらに次節で使う貨幣量を用いた換算比率((2)列)を適用して、(4)列のようなGDP値( 単位 billion ルピア )を得ることができる。結果はかなり無残なものである。 しかし回帰式を非線型にすることなどによりいくらかの改良を行うことはできよう。