1.英領期インドの農業統計の概観

 

土地から徴収された地税は、英領期インド、特に19世紀から20世紀初めの時期にかけてのインドの財政収入の基軸的部分を占めていたし、土地税収集の体制が、イギリス植民地の支配の基軸を成していた。従って、政府にとって、土地税の納税者を確定する土地査定作業とともに、農業生産の水準を把握することも重視された。さらに、輸出向けの商業的農業の拡大や飢饉対策の視点からも、農業生産の動向を把握する必要が生じ、早くから農業統計が作成された。

まず、作物ごとの作付け面積に関しては、1884ー85年から Agricultural Statistics of India が発表されている。これは、土地利用統計に続いて、25の作物と10のカテゴリーから成る「その他の作物」の作付け面積を記載している。

生産量については Estimates of Area and Yield of the Principal Crops in India が、1891-92年から、英領インドおよびいくつかの主要藩王国の報告地区について、毎年の作付け面積・生産量・面積当り収量を記載している。対象となった作物の数は、1891年には6作物(rice、wheat、cotton、 linseed、rape and mustard、sesamam)であったが、その後1898-99年までに、jute、indigo、groundnut、sugarcane が加わって、10作物となった。その後、tea が加わり、1919-20には coffee とrubber が、1924年以降は caster seeds が追加されて14作物となり、さらに、1920-21年以降については、barley、jowar、bajra、maize、gram、tobacco の統計が補充的に付け加わった。各州(管区)の県(district)レベルの農業生産量については、Season and Crop Reports が各州(管区)から刊行されている。

これらの統計の作成に当たって、作付け面積や収量の推計は次の計算に基づいて行われていた。すなわち、[ある作物の生産量 output]=[県標準エーカー当り収量 district standard(または、average、normal)yield per acre]x [作柄指数 seasonal condition factor]である。この「県標準エーカー当り収量」は、各県について作物ごとに決められている。その正確な規定は与えられたいないが、平均的な質の土地における平均的な気候条件の年のその作物の収量であると想定される。この「県標準エーカー当り収量」は、5年ごとに行われる坪刈調査 crop cutting experiments に基づいて改訂されるべきことが決められていたが、5年ごとの坪刈調査が行われない時期があったことは、後に述べるとおりである。

「作付け面積」は、刈り入れられたかどうかにかかわりなく、作付けされた面積である。このデータの収集には3つの方法があった。定期的に土地査定が行われた地域では、土地税の事務を担当する村役人が、作物と土地利用について定期的に一筆ごとに調査を行って、その結果を報告した。永久査定制度のベンガルなどでは、200から400の村落を担当する役人が、土地利用と作付け面積の報告をおこなった 1)。これらの作付け面積の推計は、面積当り収量の数値に比べれば現実をより正確に反映しているというのが、多くの研究者の判断である 2)

「作柄指数」は、平均的天候の時のその村の平均的収量を基準にして当該年の収量がどの程度であるかを、村役人や郡役人が判断して県に報告したものを基礎に、県の行政官が県のその年の作柄をパーセントやアンナという単位で表示した数値であるが、後述のようにその正確さについては強い疑念が提出されてきた。