まとめに代えて



 本稿は『康徳三年度 満洲農村実態調査報告書 戸別調査之部』を使って、1930年代の満洲農村の経済構造を分析することの可能性について論じた。この資料は当時の中国東北地域だけでなく、中国農業史全体の数量的分析にも寄与するところが少なくないと考える。本稿の第一の目的はこの『満洲農村実態調査報告書』という資料集の内容を紹介することにあった。この報告書は数多くの統計表によって構成されている。そこで、そこにある各数字を構造的にとらえるためには、何らかの具体的な問題を設定し、そこから、それら数字の持つ意味を検証する作業が必要になる。本稿は農村における徴税の実態という問題を設定し、この報告書にある「公租公課表」を検討した。今後、県・村・屯の財政構造そのものを明らかにしていくことも、重要な課題となるであろう。さらに、この税の問題をさらに掘り下げて検討していくためには、「現金収支表」「農産物売却表」といった関係する他の集計表にも考察の対象を広げていくことが必要である。一つの集計表から次第に関連する他の集計表へと分析の対象を広げ、その構造的把握に努めるという方法により、今後も、『満洲農村実態調査報告書』にある統計資料、記述史料を読み進めていきたい。先に述べた、統計数字の信頼度といった問題も、具体的な数字の分析のなかで議論した方が意味あると考える。