IV. おわりに

 

本稿では物価統計の検討を通じて、インドにおける 「選挙循環」 の存在と、循環の成立する背景としての 「補助金」 による原材料価格の抑制という人為的な利潤創出のメカニズムを摘出した。

また、卸売価格指数の10%上昇という政治分析から生まれた経験則を、食糧物価指数の検討を通じて、より構造的に把握することに成功した。すなわち、卸売価格指数、とりわけ食糧価格指数の10%を超すような急激な上昇は、都市部よりも農村部において食糧価格を相対的に上昇させる、それによる政治的な影響は農村部における政権党への批判となって現れる、したがって、政権後半期における物価上昇局面では、 「貧困対策」 「農村対策」 が声高に政権党からうたわれるということにもなる。しかし、実際に抑えられる 「管理価格」、「食糧配給価格」 の恩恵は都市・農村の生産者および、主として都市の消費者が受益することになる。農村における賃金動向が把握できないので、食料価格の上昇が常に農業労働者の実質賃金の低下を招くと結論することはできないが、上記のような 「選挙循環」 のもとでは、農村の低所得層が、物価上昇の被害を最も受けやすいことは明かである。1960年代から70年代にかけての農村における貧困線以下人口の増加にたいする農業労働者消費者物価上昇の影響を理論的にあきらかにしたダルム・ナラインの所説(9)は、われわれの知見を支持するものである。