4.今後の課題

 

以上、新シリーズの下でのインド国民所得統計の推計上の特徴と若干の問題点について記述してきたが、今後に残されている大きな課題として次の2点を指摘しつつ、小論を締めくくることにしたい。

第1に、1970−71年を基準年とする改訂シリーズに比べて新シリーズにおいて幾分改善されたとはいえ、GDP推計に際して、直接当年データに依拠しないものの比率が依然として40%近くに及んでいるということである( 表1 参照)。ちなみに1985−86年の付加価値推計に関して、鉱業・採石業、登録製造業、電気・ガス・水道、鉄道、通信、それに銀行業・保険業の場合には、直接当年データに依拠する比率は100%近くに達し、農業の場合でも78%になっているが、商業の場合には12%、その他運輸業の場合には24%、その他サービスの場合には40%であり、経済全体でもその比率は62.2%でしかない。

GDP推計に際して直接当年データに十分に活用できでないということは、付表1−61 に提示されているインド国民所得統計のうち、1980−81年価格表示の統計の多くは1950−51年より利用可能であるのに対して、当年価格表示の統計のかなりの部分が1960−61年からのみ利用可能であるということにも反映されている。また直接当年データに基づかずにGDP推計がなされている部分が少なからずあるということは、政治的、行政的要因によってGDP推計が左右される余地が残されていることを示唆している。

第2に、すでに貯蓄作業グループによって指摘されているところであるが、直接的な当年データに基づく場合であっても、とりわけ課税対象となる分野を中心に、生産コストの水増しや売上高の過少申告という手段を通じて付加価値が過少申告される傾向があり、これがためにインドのGDPが実際よりも過小評価されている可能性が極めて濃厚であるということである。

 

 

*本稿の本文は、小島(1996)を加筆修正したものである。的確かつ詳細なコメントをして下さった一橋大学経済研究所教授・尾高煌之助先生に厚く御礼を申し上げる次第である。