2.新シリーズにおける主要な改正点

 

国内生産の産業別推計方法として、新シリーズの下で生産アプローチと所得アプローチを併用するという点では従来のシリーズの場合と同様である。農林水産業、鉱業、製造業(非登録製造業を除く)などの生産部門に対しては、産出額と投入額の差額をもって粗付加価値を推計する生産アプローチが採用されている。後述のように、登録部門とは「インド工場法」が適用される一定規模以上の全ての工場がこれに含まれる。他方、非登録製造業、その他部門(電力、運輸、商業、行政など)においては、所得アプローチが採用されている。所得アプローチの下で、組織部門(民間法人部門 + 公共部門)においては予算・企業収支決算に基づいて要素支払いが算出されるのに対して、未組織部門(非登録製造業を含む)においては労働者一人当たり付加価値に就業者数を乗じて粗付加価値が推計されるという方法が採用されている。ただし減価償却を控除する際、そこで使用される比率はかなり恣意的に設定される傾向にある。さらに民間最終消費支出や資本形成の推計に際しては、コモディティー・フロー法が採用されている。

新シリーズの下で、林業(燃料用材木生産)、繊維産業(非登録部門)、カッチャー建設などを対象に、産業別国内生産の分野でも推計方法、データ面で幾つかの改正がなされたが、より注目すべき改正は、消費、貯蓄、資本形成の分野においてである。

第1に、従来、企業の帳簿の記載されている減価償却には固定資産の更新費用が提示されておらず、また行政官庁の固定資産には減価償却の規定がなかったために、固定資本消費が過小評価され、結果的に純貯蓄率ならびに純資本形成率が過大評価されているとの批判があった。1982年にインド政府に提出されたK.N.ラージを委員長とする貯蓄作業グループ(The Working Group on Saving, 1982)の勧告に従って、固定資本消費の推計に際してパーペチャル・インベントリー法(perpetual inventory method)が採用されるようになった。

第2に、民間最終消費支出の項目が24分類から38分類に細分化されるとともに、農産物の最終消費の推計において利用されている市場余剰比率が改正されるようになった 。また燃料・電力、香辛料・塩、衣料・教育費、輸送サービス、それに耐久消費財など家計消費の推計に際して、新たなデータが活用されるようになった。

第3に、従来、貯蓄は、インド準備銀行(Reserve Bank of India: RBI)とCSOの双方によってそれぞれ方法論、データもことにしながら別々に推計されていたが、ラージ委員会の勧告を受けて相互調整が図られた結果、CSOは公共部門と家計部門(物的資産、年金)、RBIは民間法人部門、家計部門(その他金融貯蓄)の貯蓄推計をそれぞれ担当することになった。

第4に、資本形成の在庫変動について、従来、穀物在庫は生産者によって保有される分は無視され、商人の抱える在庫として推計されていたのに対して、新たに穀物の純利用可能量から消費量を差し引いた差額として推計されるようになった。また民間法人部門における株式会社の在庫は、新たにRBIによって推計されるようになった。

 

 

 

 


 

5.民間法人部門には、「会社法」(1956年)に基づいて登録されている株式会社、民間商業銀行、それに協同組合機関が含まれている。

 

 


 

6.パーペチュアル・インベントリー法の下では、まず産業別固定資産の平均耐用年数が想定され、当該期間における年々の粗固定資本形成(当年価格表示)が推計される。当年価格表示の粗資本形成を不変価格表示に変換し、当該期間における粗固定資本形成を合計することによって、期末の資本ストック(不変価格表示)が推計される。固定資本消費は、資本ストックを平均耐用年数で割ることによって推計される。粗固定資本形成から固定資本消費を差し引くことによって、純固定資本形成(不変価格表示)が得られる。その後、純固定資本形成は不変価格表示から当年価格表示に変換される。いずれにせよ期末の資本ストックが推計されているならば、それに上乗せした形で上記の方式を適用することが可能である。

 

 


 

7.従来の卸売物価指数のウェイト付けに利用されている主要作物の市場余剰比率は、1950年代及び60年代はじめに実施された調査に基づいていた。しかしその後、とくに米、小麦の生産及び生産性がかなり上昇するとともに、農業のプロダクト・ミックスも変化したため、その比率をそのまま80年代においても使用することには無理が生じるようになった。農業省に設置された「農産物市場余剰の推計に関するサブ・グループ」は、1981−82年に実施された経済統計局の主要作物耕作・生産コスト調査を尊重し、そこでのデータより導かれた市場余剰比率が新たに利用されるべきであることを提言した。市場余剰比率を定式化すれば、次の通りである。

    市場余剰比率 =(生産−農家保有分)/ 生産 × 100

ただし、農家保有分 = 農家自家消費 + 現物支給賃金 + 家畜飼料 + 種子籾 + その他保有分

ちなみにインド全体を対象にして推計された市場余剰比率は、米については42.71%、小麦については50.44%である(Ministry of Agriculture,1983 )。