はじめに

 

現在、インド国民所得統計の公式データを提供しているのが、中央統計機構(Central Statistical Organisation:CSO)によって発表されている National Accounts Statistics (NAS)である。独立後、インドの国民所得統計は幾多の改善を経て、1988年には1980−81年を基準年とする新シリーズ(new series)が発表された。本稿は、インド国民所得統計の推計方法とその特徴を素描した上で、新シリーズの下でのNASデータをベースに、1950−51年から90−91年までの期間におけるインド国民所得統計の時系列データを提示することを意図したものである1

本稿では、NASに掲載されているインド国民所得統計のデータを可能な限り多く取り上げ、時系列的に整備するよう努めたが、データ的に少なくとも1960−61年まで遡ることができない項目については割愛することにした。インドの国民所得統計について留意されるべきことは、依拠する原データの利用可能性のタイミングに応じて3段階の推計値が発表されていることである。最初に10−11カ月のタイムラグをもって「速報値」(quick estimates)が発表され、その後約1年のタイムラグをもって「改訂値」」(revised estimates)が発表される。その後、さらに数年のタイムラグをもって「長期シリーズ」(long-term series)が発表される。本稿で提示する国民所得統計は、すでに「長期シリーズ」として確定した推計値のみから構成されている。時系列データを整備する上で、本稿で参照したNASデータは、CSO(1989a,1991,1992,1993,1994,1995,1996 and 1997)である。

 

 

 

 


 

1.NASのデータをベースにしたインド国民所得統計の整備はすでにH.L.チャンドック等によって手掛けられているが(Chandhok and The Policy Group, 1990) 、そこでカバーされている期間は1987−88年までであり、また産業別の詳細な国内生産・産出額のデータが1980−81年以前の期間については欠落していることに留意する必要がある。