4.SEASON AND CROP REPORT のデータ −米を中心に−



4−1.作付面積・収穫面積


4−2.収   量


4−3.生 産 量


4−4.価   格


4−5.経常投入財


4−6.農業ストック




図・表は、都合により掲載しておりません。ご了承ください。









 


4.SEASON AND CROP REPORT のデータ −米を中心に−

4−1.作付面積・収穫面積

表7は米の県別作付面積(1902/02〜1946/47)、表8は県別収穫面積(1912/13〜1946/47)を示したものである。なお、収穫面積は収量の表の方に含まれている。1912/13〜1916/17の間に、作付面積が収穫面積よりも低い数値となっている年度があるのは、収穫面積が1000未満を切り捨てた数値で報告されているからである。また、収穫面積と作付面積をよく比べてみると、値がまったく同じである県がある(例えば Rangoon, Salween, Mergui )。何らかの理由で収穫面積ではなく、作付面積をそのまま記載したのであろうか。県によっては、収穫面積の系列の信頼性に疑問が残るといえよう。

全県の収穫面積と作付面積の合計値を比較すると、前者は後者の85〜95%のレンジにあり、平均92%となっている。そこで、この数値を用いて、空白の年度(1901/02〜1911/12までの全県、また Northern Arakan 県の1913/14〜1920/21、Ruby Mines 県の1912/13〜1920/21)の、収穫面積を作付面積の92%と仮定して、推計するのも一つの方法であろう。







 


4.SEASON AND CROP REPORT のデータ −米を中心に−

4−2.収   量

Season and Crop Report からは、収量そのもののデータは得られない。その代わり、収量の表には、前出の表3の品目に関して、以下の系列が( )内の期間に関して示されている。

1)県別作柄指数作柄指数( percentage of outturn )(1901/02〜1909/10): 収量、作付面積とも標準的である時(すなわち100である)の生産量を100として計算。

2)標準収量( normal yield )(1910/11〜1946/47)

3)単位面積当たり作柄指数( percentage of outturn per acre as compared with normal)(1910/11〜1946/47): 標準収量を100とおいて計算。

4)収穫面積( matured area )(1912/13〜1946/47)

5)県別標準生産量( normal district outturn )(1909/10-1946/47)

6)県別生産量( district outturn )(1909/10-1946/47)



1910/11〜1946/47の期間に関しては、県別標準収量(表9)と単位面積あたり作柄指数(表10)があるので、標準収量 × 作柄指数 で収量を求めることができる。Northern Arakan 県に関しては、1910/11〜1920/21の標準収量がわかっていないが、その前後が1200ポンド/エーカーと数値が変わっていないので、この期間に関しても1200ポンド/エーカーを適用することにする。

上記の期間以外、すなわち1901/02〜1909/10をどう扱うべきか。このうち、1905/06〜1909/10までは、各年度の標準収量( normal yield )は不明だが、単位面積当たり作柄指数はわかっている。標準収量は、査定の時の坪刈りによって改訂され( Report on the Committee Appointied … . : 1922 p.32〜33 )、次の査定までは原則的に変わらなかったはずである。厳密にいえば、各県の査定の実施時期と坪刈りの結果を査定報告書で調べる必要があるのだが、ここでは暫定的に、1910/11(県によっては1912/13)年度の値が1905/06〜1909/10にも適用できると仮定し(表10のイタリック部分)、各年度の単位面積当たり作柄指数を乗じて収量を推計した。

問題は、1901/02-1904/05である。標準収量も単位面積当たり作柄指数もわからない。収量、作付面積とも標準的である時(すなわち100である)の生産量を100として計算した県別作柄指数(表11)がわかっているのみである。この県別作柄指数は、

県別作柄指数 = 単位面積当たり作柄指数 × 作付面積指数 / 100



と定義される( Season and Crop Report 1901/02 p.5)。この式から、作付面積指数を算出すれば、与えられた県別作柄指数から、単位面積当たり作柄指数をだすことができる。

そこで、以下の計算を行った。標準作付面積( normal cropped area )= 県別標準生産量 ÷ 標準収量( normal yield )(表9)で、標準作付面積を出す。この標準作付面積の5年間の平均をとる。その面積を仮に100として1901/02-1904/05の作付面積指数を出す。単位面積当たり作柄指数を、県別作柄指数 ÷ 作付面積指数 × 100で求める。そして、この作柄指数を1905/06〜1909/10と同様に、1910/11(県によっては1912/13)年度の標準収量に乗じて、各年度の収量を出す。

このようにして推計した結果が表12である。なお、表12の注1にも記したが、単位面積当たり作柄指数が不明な県については収量が計算できなかったので、暫定的に標準収量の値を充てた(イタリックの部分)。

この表を見ると、県によっては全く同じ数値が連続して現れることに気づく。たとえば、サルウィン( Salween )県では1907/08〜1921/22が1エーカー当たり1044ポンド、1922/23〜1940/41が1131ポンドと変化していない。他の県でも同様の例は見受けられるので、各県で集計された数値が、恣意的なものである場合もあるようだ。

収量を違う方法で推計してみよう。県別生産量のデータが1910/11〜1946/47に関しては得られるので(表13)、それを作付面積(1910/11〜)(表7)、収穫面積(1912/13〜)(表8)でそれぞれ除して、単位面積当たり収量を求めた(表14、表15)。

表13、14、15に関して、ビルマ全県の平均値を出し比較したのが、表16である。標準収量と単位面積当たり作柄指数から推計した収量は、収穫面積、作付面積、生産量を用いて算出した収量いずれとも若干異なっている。表14、15の系列の適否を判断するの、県別生産量(表13)の算出方法がわからないので難しい。ただし、標準収量と作柄指数と収量の差は、いずれも平均すると3%程度であるので、その値は近似しているといえよう。







 


4.SEASON AND CROP REPORT のデータ −米を中心に−

4−3.生 産 量

Season and Crop Report では、1909/10〜1946/47の期間に関して生産量の系列が得られる.インドでの生産量の算出方法を範としているとすると、ビルマの生産量も 収穫面積 × 標準収量 × 作柄指数で求められていたと考えられる(柳沢 :1997 7ページ)。そこで、実際に収穫面積(表9)と( 標準収量 × 作柄指数で算出した)単位面積当たり収量(表12)を用いて生産量を計算してみたところ(表17)、両者の数値は一致しない。さらに、一つの参考として、作付面積(表8)と単位面積当たり収量(表13)を乗じて生産量を出した(表18)が、これも表13とは異なる数値を示している.

そこで、表13,17,18の各県別の系列から、ビルマ全県の生産量を合計した系列を出し、比較してみた(表19)。これを見ると、 Season and Crop Report に載っている生産量(A)と、収穫面積(B),作付面積(C)から算出した生産量の値はいずれも異なるが、問題はその差である。 Season and Crop Report の生産量(A)は、収穫面積と収量から算出した生産量(B)よりも平均約9%多く、作付面積と収量から算出した生産量(C)よりも約3%少なくなっており、作付面積をもとにした生産量の系列の方が近い値になっていることになる。したがって、Season and Crop Report の生産量の算出方法は数値を比較する限りはっきりとせず、どの系列がもっとも妥当であるのか最終的に判断するには、さらなる検討が必要である。

なお、ここではすべて籾米で議論をしているが、今後国内流通量、貿易量などの推計をする際に精米換算をする必要がでてくるであろう。厳密には米の品種や輸出先によって適用すべき精米換算率は異なる。たとえば、広く下ビルマで栽培され、Burma Rice といえばこれを指した、Ngasein 種を精米したものの場合、その換算率は41〜68パーセントと幅がある。しかし、植民地期の統計は品種、等級を特定しておらず、Season and Crop Report もその例外ではない。したがって、換算率が必要になった際には、もっとも生産量、流通量が多い品種、等級の換算率を採用するのがもっとも実際的な方法であろう。政府の報告書は、もっとも一般的な精米換算率は60〜65%としている12( Agricultural Survey No.17 The Rice Crop:1932 pp.32〜33)。







 


4.SEASON AND CROP REPORT のデータ −米を中心に−

4−4.価   格

Season and Crop Report の価格の系列は、1901/02〜1905/06については各県の Agricultural Station で記録された100バスケットもしくは100ビス当たりの価格、1906/07〜1917/18は各 Station ごとの82 2/7ポンド当たりの価格、1918/19〜1946/47は県ごとの100バスケット(作物によっては100ビス当たり)価格の系列が得られる。

表20には米の収穫時の価格を示した。これは、アンナ、パイスの位まで記されていた場合には、それぞれ10進法でルピーになおし、さらにすべて100バスケット当たりの価格に換算したものである。また、各県の Agriculture Station での数字が記載されている年度(1901/02〜1904/05)に関しては、その各数値の平均値をその県の価格とした。

しかし、すべての県、年度について価格データが得られているわけではない。政府の報告書に記載されるのは、基本的に100バスケット以上の取引があった場合である( Land Records Manual 4th ed. : 1946 p.79)。したがって、価格データがないということは、100バスケット以上の取引がなかったことを意味する場合もあるかもしれない。しかし、ラングーンのように、取引が頻繁であると思える場所でも、価格の欄が長期間にわたって空白であることを考えると、他の理由によって記録されていない場合もあったと十分考えられる。その区別は実際には難しいので、ここでは、その年度の全県の平均価格を求め、データが得られず空白となっている県に充てた13。表20のイタリックの部分がそれにあたる。

長期経済統計での価格は農家庭先価格が必要である。しかし、植民地期のビルマにおいては、文字通り農家の庭先でブローカーに販売される集荷形態であったこと、また2−4で触れた籾米を量るバスケットの大きさの不統一という問題もあって、比較可能な農家庭先価格統計を得るのは実質的にひじょうに困難であった。そのため、公式統計の価格は、集荷の最終段階である精米所の買い上げ価格である場合が多かったとされる( Cheng:1968 p.70 )。Season and Crop Report の価格も、収穫時の価格となっているだけで庭先価格とは明示されていない。価格統計のとり方に関する明確な規定がないので、おそらく調査時点や品種など地域によってその方法はまちまちだったという可能性が大であろう。仮に Season and Crop Report の価格が精米所の買い上げ価格であるケースが多いとするならば、流通マージン率等がわかれば一定の推計が可能になるかもしれないが、これは今後の検討を待たねばならない。







 


4.SEASON AND CROP REPORT のデータ −米を中心に−

4−5.経済投入財

経常投入財として計上の必要があるのは、化学肥料、農薬などの非農業起源財と、種子など生産統計に計上されている農業起源財である(川越:1996  15ページ)。しかし、植民地期に限っては、農薬、肥料の使用はきわめて限定されていたと考えられるので、種子以外の経常投入財は計上する必要はないだろう。肥料は、農業起源財である厩肥、緑肥などが苗代に使用されることもあったが、それほど一般的ではなかったし、これは生産統計にもでてこない。一方、化学肥料も市場になくはなかったが、コストに見合うほどの収量増は期待できず、使われることは希であった。( Agricultural Survey No17. The Rice Crop : 1932 p:21〜22 )。

一方播種量は推定しなければならない。しかし、残念ながら、播種量に関する系列は Season and Crop Report では得ることができない。したがって、農業試験場や農業局の報告書に頼りながら推計する必要がある。 米の場合、1エーカーにつき1バスケット程度の種籾が必要と考えられていたようである( Agricultural Survey No.17 The Rice Crop :1932 p.19 , Markets Section Survey No.9 Rice :1958 p.21 )。そこで、この各年度の播種量を、全ビルマの作付面積(エーカー)× 1バスケット(= 46ポンド)で求め、これに米の価格を乗じ、種子投入額を推定した(表21)。







 


4.SEASON AND CROP REPORT のデータ −米を中心に−

4−6.農業ストック

純付加価値額の推計のためには、農業ストックの減価償却額を推計しなければならない。ここでは、 Season and Crop Report の動物と農具の物量系列を表22に示しておくにとどめる14。 これらの市場価格は Season and Crop Report からはわからない。このうち、役牛に関しては、ある政府の報告書から1925/26年度の価格が得られる(表22)。なお、同報告書では、役牛の価格は10〜20年前に比較すると50-100%上昇したとしている。( Agricultural Survey No.7 Supply of plough ... p.1 )。牛車、農具の価格は得られなかった15





 


注12 主要な米の品種、特級別の換算率(バスケット表示)に関して詳しくは Agricultural survey No.17 The Rice Crop : 1932 p.33の表を参照。



 


注13 他の方法として、ビルマ全体の平均値と各県の実際の価格に一定の相関があれば、平均値から特定の年度の価格を求め得るとも考えたが、相関関係を認めることができなかった。



 


注14 農業資本ストックとしては、動物、農機具のほかに植物、建物が考えられる。ビルマの植物資本としては、ゴム、やしが考えられる。しかし、ここではそれに関して議論できる用意がない。



 


注15 なお、高橋の1987年の下ビルマでの調査によれば、投牛(ビルマ牛の成牛)1頭あたりの価格が2500〜3000チャット、牛車3000チャット、その他の農具は25〜100チャットであった。この価格比が植民地期にそのまま適用できるか検討が必要だが、一つの参考になろう。