３−１. Season and Crop Report 作成の目的

植民地期における農業統計収集の一義的な目的は、地租徴収の円滑化にあった。地租は植民地期を通じて貴重な財源であった。当初は王朝時代以来の慣行的な課税額を参考に地租額を決定していたが、その後の耕地の急速な拡大をうけて、より体系的な制度の整備が急がれるようになった。1876年に下ビルマ土地租税法（ The Lower Burma Land and Revenue Act,1876 ）が制定され、耕作面積、土地生産性、農産物価格等を把握した上で地租額を決定する方式が採用された。それが地租査定（ settlement ）である。査定の結果それぞれの土地についての標準的な地租額が決められ、それをベースに、その年度の天候の善し悪し、農産物価格等を加味して、毎年の地租額が算定（ assessment ）された後、徴税が行われる仕組みになっていた¹⁰。この算定と10〜15年おきに実施される査定の判断材料として統計データが必要であった。この過程で作成された報告書の一つが、Season and Crop Report であった¹¹。

３−２. Season and Crop Report 作成

さて、Season and Crop Report を作成するのは、土地記録局（ Land Records Department ）である。土地記録局は、 毎年の補足測量（ supplementary survey ）を行い、査定局（ Settlement Department ）が査定時に作成した地積図や様々な台帳の更新、毎年の地租額の算定（ assessment ）、そして各種の年次報告書の作成を主な任務とした。実際に補足測量や統計の収集にあたるのは、各県の土地記録局に属する測量官（ Surveyor ）であった。５月までに作柄推計（ crop forecast ）やそれまで集めた統計データを集計し、５月７日までに県知事（ Deputy Commissioner ）、６月７日までに管区知事（ Divisional Commissioner ）、さらに６月２０日までに土地記録局、査定局の長である土地査定記録長官（ Commissioner of Settlements and Land Records ）に提出されることになっていた（ Land Records Manual 4^th ed.：1946 P.87）。

３−３. Season and Crop Report の構成

Season and Crop Report では、その年の概況、耕作面積、灌漑面積、収量、価格、農業資本、農民の状況等についての解説が６頁にわたってなされ、この部分には前年度と比較して、特記すべき点が記された。Season and Crop Report は、この解説と、年度によりタイトルに若干の違いはあるが、以下の統計表（ statement ）とで構成されている。

1. 降水量（ Rainfall ）
2. 土地利用（ Area as classified, with details of area under cultivation ）
3. 作物別作付面積（ Croppoed area of the year ）
4. 灌漑面積（ Irrigated area of the year ）
5. 収量（ Outturn per acre and total produce of the principal crops ）
6. 主要作物の収穫期の価格（ Prices at harvest-time of the principal crops ）
7. 農業ストック（ Agricultural stock ）

このうち、純付加価値の推計に関係するのは、作付面積、収量、価格、農業資本である。次節では米を例にとりあげながら、Season and Crop Report のデータを詳しくみることにする。

注１０　地租行政の概要については、岡本：1997第２節を参照。

注１１　その他の報告書として、Weekly Crop Report, Fortnightly Returns of price, Crop Forecasts, Land Records Administration Report, General Agricultural Statistics, Land Revenue Administration Report, Irrigation and minor returns が出された。くわしくは、Land Records Mamual 3nd. ed. Chapter X を参照されたい。