4.要約と今後の課題

以上まず第2節では,『農商統計表』の性格や内容及び問題点などについて議論したうえ,『農商統計表』の修正作業を行った。その結果について第3節で,他の推計との比較を通じて検討した。われわれの推計には恣意性があるので十分とはいえないが,結果としては「悪くない」と考えて良い。もちろんわれわれはこれに満足しているわけではない。しかしこの推計を通じて,中国1910年代の工業生産の実態とその発展ぶりを解明するのに,一歩前進したに違いない。残りの問題は今後の課題として,後日の改善を待たねばならない。

これから直面する課題を指摘しておこう。第1は近代工業部門の欠けている部分をどのように補うか,ということである。第2は生産量の推計である。それは工業の生産指数を造るために必要不可欠である。生産量の推計には生産額以上の困難に直面する。その1つは,一部の品目についての単位の不統一である。例えば,煙草については「箱」で数える場合もあれば「本」の場合もある。もう1つは生産額より生産量の方がデータの欠落が多いことである。

第3に工業の生産構造や生産技術を考察するために,7人以上の工場についてもっと詳しく分析する必要がある。例えば,原動機使用工場の比率や原動機種類の構成および規模の構造,さらに紡績工場,中央官営工場も推計可能である。また牧野文夫は劉大鈞の『中国工業調査報告』の下冊の数字を見直している。従って1933年の工業生産額が修正される可能性がある。その結果次第では本稿の3.3節の推計も手直しする必要が出てくる。

最後に,この『農商統計表』の修正結果をチェックする材料が不可欠である。この時期にはこの種の資料は非常に少ないが,われわれによってどうしても必要であるので,今後も引き続き探索の努力を続けたい。