A.解説



V.マクロ経済指標の計算・推計

上述したように、1992年以前、ベトナムはMPS方式に基づき、国民経済の総合指標を計算した。国民収入や社会総生産はその方式で計算された代表的な経済指標である。1992年に統計総局は国連開発計画(UNDP)の助成プロジェクトで、89年および90年のGDP関連データを推計・計算し、発表した。そして92年12月25日付けの首相決定83/TTgによりベトナムは93年以降国連の基準に従って、91年以降の国民経済計算システム(SNA)を実施し、GDP、GNP、貯蓄、最終消費、中間支出などを算出し、発表してきている。

要するに本稿がカバーする期間1976―1995年のうち、1989―1995年は統計総局が整備・発表したもので、1976―1988年は本研究が推計したものである。ただし、89―95年期間についても統計総局の発表データに若干の修正・改善を加えたので本稿の系列データは統計総局が発表してきたもの(資料文献リストのA項目やD項目の資料)と若干異なるところもある。


1.MPS方式の諸指標の定義

SNA指標の推計に当たってMPS指標を使用しなければならないが、その定義を明確にしておかなければならないし、追加データも必要である。まずMPS方式に含まれるデータリストと、必要に応じてその簡単な定義を記しておこう。なお、MPSベースの指標は当年(経常)価格で表示されたもののほか、1976-80年の期間に1970年価格、1981―86年の期間に1982年及び1989年価格の実質値もある。

    ― MPS国民収入:物的生産部門のみの付加価値であるが、減価償却が含まれないもの。但し、この部門によるサービス各種の消費(銀行の利子など)を含む。

    ― 社会総生産:減価償却と中間消費とも含む、物的生産部門のみの生産高

    ― 固定資産の減価償却

    ― 物的生産の一般消費あるいは消費基金(物的生産部門のみの消費)

    ― 投資基金(物的生産部門のみの純投資)

    ― 財貨の輸出入

MPS方式に出ていない追加統計は次の通りである。

    *サービス部門の生産高、中間消費(サービス部門の付加価値を推計するため)。これについては教育、科学技術、行政事業などは国家予算の統計、銀行活動は銀行統計、商業活動は商業統計データそれぞれが利用される。住民の個人住居サービス活動については、1985年以降は調査資料があるが、84年以前はこの分野に関する資料がない為、1989年の実績を参考にして年間平均の人口の上昇率に基づいて概算しなければならない。サービス部門の各種分野の原資料は Nien Giam Thong Ke(統計年鑑)などにある。




2.推計方法:

国民経済勘定システム(SNA)に関する指標について、3部門に分けられたGDP、政府及び家計最終消費支出、投資、商品・サービス輸出入は、当年価格と固定価格で計算される。固定価格で推計される各指標の実質値は1989年価格をベースにし、GDP,最終消費、投資,輸出入などの価格指数で当年価格の実績を1989年価格に換算して推計するのである。

 (1)当年価格ベース

GDPは、国民所得の3面等価の原則で3つの推計方法を用いて結果を相互チェックすることが望ましいが、資料の制約があるため、生産面と支出面で推計される。

 (a)生産面の推計

国内総生産(GDP)については物的生産部門のGDP(Y1)とそれに含まれていない他のサービス活動のGDP (Y2)をそれぞれ推計した上、合計する。上述した産業分類表に示されているように、物的生産部門は1次産業と2次産業を中心になっているが、商業(卸売り)・運輸・郵政といった一部のサービスも含む。

    *物的生産部門のGDP(Y1)

物的生産部門のGDP(Y1)については、MPS部門別国民収入データ(各年の「統計年鑑」に発表されたもの)に、固定資産の減価償却を加算し、物的生産部門によるサービス各種の消費(上述)を引かなければならない。


  Y1= MPS国民収入 + 減価償却 − 物的生産部門によるサービス各種の消費


    *他のサービス活動、つまり国家行政管理、科学研究、文化、医療、教育、スポーツ、銀行などのGDP(Y2)の推計方法:

          Y2 = サービス各部門の生産額 ― その中間消費
    
             = 各種サービス活動の付加価値


サービス各部門の生産額とその中間消費の範囲、内容と計算方法は、統計総局の決定(94年3月24日付けの31/TCTK号)に基づいて刊行されたPhuong phap tinhGDP (GDPの推計方法)で詳細に紹介されている。

最終的に


   GDP(Y) = Y1 + Y2

   GDP   = 国民収入 + 固定資産償却+ 各種サービス活動の付加価値


 (b)最終支出面の推計



  GDP = 最終消費支出+投資+商品・サービス輸出−商品・サービス輸入

   (Y = C + I + X − M )

   CとIとも家計と政府のものを含む。


    *SNAベースの最終消費(C)はMPSの消費基金(C1)とサービス各部門の最終消費(C2)との合計になる。サービス各種の最終消費支出は国家行政管理、科学研究、文化、医療、教育、スポーツ、個人住宅、公共サービスなどを含むが。その資料はGDP推計の際に得られた各種サービス部門の生産額データである。また、C2は国家行政管理・保安・国防関連サービスとしての最終消費(C2a)とその他のサービス各部門の最終消費(C2b)とに分けられる。前者(C2a)は国家予算の資料をそのまま使用できるが、後者(C2b)は追加調査を行わなければならないからである。それぞれの計算方法は次の通りである。なお、後者の生産価値は調査関係上、中間消費を含めているのでその中間消費も調査して、これを生産価値から引いて付加価値額を出す必要がある。



  C2a = 国家行政管理・保安・国防関連サービスの予算

  C2b = その他のサービス各部門の生産価値 − その他サービス各部門の中間消費

結局

  C(SNA) = C1(MPS) + C2a + C2b

    *MPSの投資基金はSNAの純投資と同じで、それに減価償却を加えたものは粗投資になる。

    
      投資(SNAのI)= 投資基金(MPS) + 固定資産の減価償却
    
      純投資 = 投資 − 固定資産償却 = 投資基金(MPS)

      *商品・サービスの輸出入(経常収支)


    1976〜1988年のベトナムの輸出入は商品輸出入が主要で、サービス輸出入はわずかであった。なぜなら、サービス貿易のほとんどは海外からの運輸、郵政サービスの輸入であったが、これらは主に商品輸入のCIF価格の中に含まれているからである。その他のサービスの輸出入は、かなり少ないと思われるし、統計的に把握できない。このため、サービスの輸出がその輸入に等しいと仮定される。つまり、サービスX−サービスM=0とする。つまり、

    
       経常収支(SNA) = 経常収支(MPS)= 貿易収支


     (2)固定価格ベース

    1989年をベースにした固定価格による計算方法は普通次の通りである。

    
                生産額(当年価格)     中間消費(当年価格)
      GDP(基準年)=            −                
                 生産価格指数     物資とサービスの価格指数

      (産業部門別のGDPを計算した上、それらを総合して経済全体のGDPを出す)。

    しかし、1796〜88年は資料に制約があり、とくに、生産とサービスの価格指数、物資の価格指数はそうである。また、1976〜80年の国民収入の実質値は70年価格で、1981〜86年のそれは82年価格と89年価格である。そこで、次のような計算方法をする。

      a/農業、林業、工業、建設、商業、運輸、郵政の各部門の実質GDPについて固定価格で計られた産業別国民収入(MPS)の増加率を計算して、その結果で1989年の各部門のGDPを割って1989年価格の部門別GDPの時系列を作るのである。つまり、MPS産業別国民収入の増加率とSNA産業別GDPの増加率がほぼ同じという前提があるわけである。



    
      例:
                  1989年のGDP(1989年価格)
      1988年のGDP =                     
      (1989年価格)   MPS国民収入の89/88年成長率


      b/各種サービス部門の実質GDPについて



    
                     サービスのGDP(その年の価格)
      ある年のサービスのGDP =                   
       (1989年価格)      市場価格指数(89年ベース)


     (3)最終消費支出(1989年価格)について

    1976〜88年のベトナム経済状況ではGDPはすべて最終消費支出に当てられたから、1989年価格で最終消費支出を計算するためにGDPデフレーターを用いた。

    
                    GDP(当年価格)
      GDPデフレーター =              
                  GDP(1989年価格)