第W章 GNP構成要素の成長指数


    1.概  説

    2.最 終 需 要

      (1)消 費

        (ア)概 説

        (イ)消 費 財

          (a)食品・飲料・たばこ (b)非耐久財 (c)耐久財およびその他の財

        (ウ)消費サービス

          (a)住宅 (b)公益 (c)運輸 (d)通信 (e)修理・個人日用 (f)レクリエーション (g)教育 (h)保健

      (2)投資

        (ア)概説 (イ)機械・設備 (ウ)建設およびその他の資本支出 (エ)家畜純増 (オ)大修理

      (3)その他の公共部門支出

        (ア)政府行政サービス

          (a)総合農業プログラム (b)林業 (c)国家行政および社会組織の行政機関 (d)文化 (e)地方サービス (f)警察

        (イ)研究開発

        (ウ)その他の支出

    3.発生部門

      (1)工  業

        (ア)概説 (イ)サンプル (ウ)セクター,ブランチ,グループ,全体

      (2)建  設

        (ア)概説 (イ)指数の推計

      (3)農業

        (ア)概説

        (イ)指数の推計

          (a)純生産指数 (b)中間投入指数 (c)付加価値指数

      (4)運  輸

      (5)通  信

      (6)商  業

      (7)サービス

        (ア)住宅 (イ)公益 (ウ)修理・個人日用 (エ)レクリエーション (オ)教  育

        (カ)保健 (キ)科学 (ク)信用・保険 (ケ)政府行政サービス

      (8)軍  人

      (9)その他の部門

    4.総  括







     

    1.概  説

    CIAの方法によれば,ソ連の長期実質GNPは,基準年(1970年)を100として指数化されたGNP構成要素を,基準年のGNPシェアをウェイトとして各年について合計し,その年の実質GNP指数という作業を繰り返すことによって得られる。つまりそれは,ラスパイレス型の数量指数である。前章において,ウェイトとなるべき基準年のGNP構成要素のシェアが求められた(表C−1)。そこで本章では,各構成要素の指数を求めることになる。

    指数の具体的な求め方は,以下で見るようにさまざまである。最終需要の側面では,消費指数は3個の消費財サブ指数と8個の消費サービス・サブ指数とから成る。これらのサブ指数の作成には,かなりの物量単位のサンプル品目が用いられるが,そのウェイトとなるのは基準年の現行価格であって,要素費用価格ではない。また投資指標は,ほぼ全面的に公式統計に依存している。また在庫投資については,信頼できる時系列データが得られないため個別的な推計がなされず,「その他の支出」の項目の中で純輸出などとともに一括して推計されている。「その他の公共部門支出」のサブ指数の多くは,マンアワー単位の雇用データによるものであり,したがって労働生産性の向上(あるいは低下)は指数には反映されていない。

    一方発生部門の側面では,工業指標を構成する各部門の指数は,それぞれサンプル品目の生産動向によって構成される。サンプル指数であり,またランダム・サンプリングではないから,サンプルのレプリゼンタティブネスの問題が生じるのは致し方がない。また当然のことながら,生産の動向がそのままその部門の付加価値の動きを示すものではない。いわゆる原材料集約度の変化があるから,むしろ両者が一致するほうが稀であろう。またサンプルの多くは物量単位で測られているが,一部には信頼性が相対的に低いと考えられる価値タームで表されたサンプルが使われる。さらに,各部門への統合ウェイトに,基準年ではなく,別の年の公定価格が使われる場合もあるという問題がある。一方,建設部門の指数は原材料投入に基づいて作成される。また農業部門の指数は,デフレートされた総生産からデフレートされた中間投入を差し引くという,いわゆるダブル・デフレーション法によって得た付加価値に依拠している。サービス部門の多くは,上で述べたようにマンアワー単位の雇用量を指標としており,先ほど指摘したような欠陥を残す。結局発生部門別でいえば,付加価値の生産を測定しているのは農業のみであることになる。

    このような問題点があるとはいえ,CIAの方法は,基本的なデータの制約の中で,できるだけ実態を反映した指標を得ようとした努力のあらわれとして評価することのできるものである。本章の最後に,表D−6表D−7として,1970年を100としたGNP構成要素の成長指数を,それぞれ最終需要別,発生部門別に掲げた。以下に,個々の指数の推計方法を具体的に見てみよう。





     
    2.最終需要 (1)消費

    (ア)概  説

    CIA報告書の第W部,G.E.SchroederとM.E.Dentonによる消費に関する部分(JEC,1982,pp.317−401)をもとに,消費指数の導出について説明しよう。

    消費の指数は,消費財部門と消費サービス部門の加重集計値である。消費財部門は,食料(食品・飲料・たばこ),非耐久財,耐久財その他の三部門から成り,また消費サービス部門は,住宅,公益,運輸,通信,修理・個人サービス,レクリエーション,教育,保健の八部門から成る。これら合計11のカテゴリーはまた,おのおののカテゴリーを構成するいくつかのサンプルの指数の加重集計値である。これらのサンプルのかなりの部分は,物量単位のデータによるものである。またこれらのサンプルによって,全消費の90%以上がカバーされているという。

    SchroederとDentonがその信頼性に最も自信を持っているのは,食料,非耐久財,運輸,通信の各部門である。これらは前述のとおりサンプルによる推計ではあるが,サンプル数が多く,その部門の消費のほとんどをカバーしていると考えられ,またそのほとんどが物量タームのデータを基礎としているため,価格による過大評価のおそれが小さい。このようなことが,著者達の自信の源となっている。一方,彼らが最も信頼性に欠けるとしているのは,耐久財,レクリエーションの各部門である。前者は,公式統計の価格データに依存しており,また後者は,サンプル数がきわめて小さく,そのレプリゼンタティブネスに疑問が残る。これらの事実が,著者達の留保の原因である。

    SchroederとDentonは報告書第W部の中で,基本的に,3つの消費財部門,8つの消費サービス部門の指数を加重平均するためのウェイトとして,1970年現行価格表示による各部門のシェアを用いて議論を展開している。このため,報告書第W部Table A-1(pp.353-64),あるいはTable A-2(pp.365-8)の値は,1970年要素費用価格表示をウェイトとして作成されている報告書第T部Table A-6(pp.65-7)あるいはTable A-12(pp.79-81)の値と異なっているので注意が必要である。本来であれば,CIA報告書は,ソ連のGNPの動向を分析するすべての記述において要素費用表示ウェイトに基づく分析を展開すべきであると考えられるが,消費の部分ではそうなっていない。報告書の著者間の連絡が徹底しなかったためか,あるいは意図的であるとすれば,消費動向の分析という限定された目的のためには,現行価格表示が望ましいと考えられたためかもしれない。

    勿論,要素費用ウェイトについての説明が全くないわけではない。現行価格によるウェイトを用いて構成された指数と,要素費用を用いて構成された指数を比較した部分(JEC,1982,p.331)を簡単に要約しよう。要素費用ウェイトを用いると,総消費の成長率は全体として一割がた落ちる。これは,要素費用ウェイトの使用が,成長のゆっくりした住宅部門のウェイトを高める一方,急速に増大する耐久消費財部門のウェイトを小さくするからである。また同様に,この調整によって食品・飲料・たばこ部門の指数の成長速度が小さくなるが,これは,現行価格から要素費用への切り替えによって,相対的に成長の遅い動物製品のウェイトが上がる一方,非常の成長の速い飲料のウェイトが大きく削減されるからである。周知のように,肉には補助金が与えられ,アルコール飲料には巨額の間接税が課せられていたという事実の反映である。

    以下では,SchroederとDentonにならって,消費指数の作成について簡単に説明しよう。





     
    2.最終需要 (1)消費

    (イ)消 費 財

    前述したとおり,消費財の指数は,食料(食品・飲料・たばこ),非耐久財,耐久財その他,の3部門の指数の加重平均である。その際に使用されるウェイトは,1970年のそれぞれの部門への支出額構成比である。


      (a)食品・飲料・たばこ

    この指標は,次の18品目(15の食品,2つの飲料,1のたばこ)のサンプル指標の加重合計値である。すなわちそれらの品目とは,肉,魚,野菜油,マーガリン,ミルク,バター,チーズ,卵,砂糖,菓子,茶,小麦粉,マカロニ,ジャガイモ,野菜,果物,アルコール・ソフト飲料,たばこである。デフレートされた小売販売額に基づくマカロニとたばこの2つのサンプル指標を除く16品目については,物量消費データである。マカロニとたばこの指数導出に使われたデフレータは,公式統計の小売価格指数である。当然のことながら,価値タームのデータは,物量単位のデータにくらべれば歪曲の可能性も大きいと考えられるが,必要な物量データが得られなかったために,価値データによって代用された。しかし,この2品目が食品・飲料・たばこ指数に占めるウェイトは,わずかに3%である。1970年におけるこれら18品目への支出は,食品・飲料・たばこのカテゴリーに入るすべての消費支出額の94.4%を占める。

    物量タームの品目のうち,肉,魚,野菜油,ミルク,卵,砂糖,小麦粉,ジャガイモ,野菜,果物の10品目は,公式統計においてキログラム,あるいは個数(卵の場合)で表現された一人あたり消費データが基礎となっている。これらは,全体の63%のウェイトを占める。たとえば,菓子の生産に使用される砂糖の部分は砂糖の消費から除かれる等,二重計算が生じないよう配慮されている。データの出所はNarkhozである。またデータの得られない部分には,生産の成長率データからの推計が行われており,これが品目別指数の,若干の不正確さの原因となっている可能性がある。

    その他の6品目は,物量単位の公式生産統計( Narkhoz )に基づく。生産データは,それが可能な場合には,Vneshniaia torgovlia SSSR の純輸入データや,Narkhoz の在庫変動データによって修正が施されている。修正されない場合は,生産量がそのまま消費量として利用されるわけであるから,指数の構成に若干の誤りが生じている可能性もある。これらの6品目は,全体の指数の34%のウェイトを占める。

    これらの18品目のサブ指数を全体の食品・飲料・たばこ指数として構成する際のウェイトには,1970年におけるサンプル品目に対する実際の支出額の構成比が使われる。各品目に対する総支出額は,Narkhoz,Vestnik statistiki から得られる小売総販売額,Narkhoz 等から推計されるコルホーズ市場販売額,CIAの推計による軍隊での現物支給,および本稿第U章で推計された現物消費の四者の合計額である。これらのウェイトは,肉(19.84%),魚(3.02%),野菜油(0.98%),マーガリン(0.61%),ミルク(8.86%),バター(3.20%),チーズ(0.71%),卵(3.58%),砂糖(5.07%),菓子(5.64%),茶(0.59%),小麦粉(9.93%),マカロニ(0.54%),ジャガイモ(3.96%),野菜(3.24%),果物(4.08%),アルコール・ソフト飲料(23.43%),たばこ(2.73%)である。


      (b)非耐久財

    この指標は,次の16の品目に関するサブ指標の加重合計である。すなわち,綿織物,毛織物,絹織物,リネン織物,洋服,ニット下着,ニット上着,靴下,革靴,ゴム靴,フェルト靴,洗濯石鹸・洗剤,化粧石鹸・化粧品,男性装身具用品,学校・事務用品,出版物の16品目である。非耐久財指標もこのようにサンプル指標であるが,これらのサンプルの支出は,1970年におけるこの種の財全体に対する支出の94%をカバーする。

    16品目のうち,ニット上着,ニット下着,革靴,ゴム靴,フェルト靴,靴下の6品目は,Promyshlennost' SSSR 1964,および Narkhoz からとられた物量単位生産データによる。革靴のデータのみが,貿易と在庫変動に関する修正を施されている。また1品目,すなわち洋服は,公式統計による不変価格表示の生産額である。残りの9品目のうち,出版物を除く8品目は,デフレートされた小売販売額である。出版物のみは,1977年まで現行価格による小売販売額であるが,不変価格表示との間にそれほどの乖離があるとは考えられない。以上のデータの出所は,Narkhoz である。

    これらのサブ指標を合計する際のウェイトは,食品指標と同様1970年における各品目に対する実際の支出構成比である。参考までにそれらを記しておくと,綿織物(3.3%),毛織物(2.4%),絹織物(2.7%),リネン織物(0.6%),洋服(33.6%),ニット下着(6.3%),ニット上着(10.3%),靴下(4.1%),革靴(15.2%),ゴム靴(2.1%),フェルト靴(0.5%),洗濯石鹸・洗剤(1.6%),化粧石鹸・化粧品(2.7%),男性装身具用品(8.7%),学校・事務用品(2.0%),出版物(3.9%)である。出所は,前項と同じく NarkhozVestnik statistiki 等である。


      (c)耐久財およびその他の財

    このカテゴリーは,上記,食品・飲料・たばこ,および非耐久財に属さないすべての消費財を含む。残念ながら,このカテゴリーに属する品目に関する詳細で偏っていないデータを得ることができないので,基本的に,次の方法によることとなった。まず, Narkhoz から得られる非食品消費財の現行価格小売販売額を,同じく Narkhoz から得られるそれらの財に関する小売物価指数でデフレートして実質化する。同様に,非耐久財についても同じ手続を行って実質化する。その上で,前者から後者を差し引く。こうして,実質化された耐久財その他の金額を求め,それを指数とするのである。公式統計の物価指数をデフレータとして用いるわけであるから,相当の過大評価の可能性があることになる。





     
    2.最終需要 (1)消費

    (ウ)消費サービス

    この指数は,住宅以下,8つのサービスの指数の加重合計である。用いられるウェイトは,1970年における最終需要別GNPの構成比である。


      (a)住 宅

    この指数は,公的・私的所有,都市部・農村部の如何に関わらず,すべての住宅ストックを対象とする。農村部住宅のおよそ80%,都市部住宅のおよそ25%が,私的に所有されていると考えられる。国営住宅の基本家賃は,1920年代に設定されて以来変わっていない。住宅サービスを計測するために使われた指標は,都市部と農村部のそれぞれの総居住面積である。データの出所は, Narkhoz およびW.S.Smith,op.cit. 等である。居住面積のみを指標とすれば,当然生じているはずの住宅の質の改善を考慮に入れないことになり,住宅サービス提供の過小評価を導くことになろう。しかしSchroederとDentonによれば,ソ連における住宅の質が改善されたとする証拠は多くはなく,特にそれを考慮する必要はないとのことである。


      (b)公 益

    この部門は,電気,ガス,集中暖房,給湯,上下水道に関するサービスの供給から成る。米国の国民経済計算における個人消費の’household operations’に一致する。この指数は,米国においては,現行価格表示の支出額を適当なデフレータによって実質化しているが,ソ連の場合には,データ不足でこの方法がとれない。そこで,物量単位の,家計における電力消費(キロワット時),ガス消費(立方メートル),および都市部国営住宅の面積(集中暖房・給湯・上下水道指標の代理変数)の3つの指数の加重平均をもって,公益部門の指数とする。この部門においては,質の改善はそれほど考慮する必要がない。ウェイトとして用いられるのは,1970年におけるそれぞれの部門への支出比率である。

    電力消費に関するデータは,Energetika SSSR v 1971-75 godakh,P.S.Neporozhnii,ed.,Elektrifikatsiia SSSR,I.T.Novikov,Energetika SSSR 等から得られるが,かなりの部分が欠けており,それらについては生産の成長率等から推定するほかはない。ガスについても事情は同様で,Ekonomika gazovoi promyshlennosti 誌,Gazovaia promyshlennost' 誌, Narkhoz 等から得られる情報は限られているので,適当な仮定の下に推計せざるを得ない。住宅面積はかなりのデータが Narkhoz から得られるが,それでも若干の推計が必要となる。


      (c)運 輸

    消費部門における運輸の指数は,乗客輸送サービスを計測する。指数の作成方法は,かつてN.M.Kaplan等によってとられた方法と同様で,物量単位で計られた鉄道,海上,河川,バス,航空,路面電車,トロリーバス,地下鉄,およびタクシーの9つのサブセクターの合成指数として運輸指数を構成する。これらのサブ指数を合成するために使われたウェイトは,Transport i sviaz' 等さまざまな資料から得られる各交通機関の平均料金である。またそれぞれの交通機関の各年のデータは,Transport i sviaz'Narkhoz から得られる。路面電車,トロリーバス,地下鉄は乗客数,その他は,乗客数×キロメートル(あるいはマイル)単位で計られており,ウェイトのための平均料金も,これらの単位ごとの価格である。


      (d)通 信

    通信部門には,郵便,電話,電報,ラジオ・テレビ放送その他が含まれる。この部門の指数は,郵便,電話,電報,ラジオ・テレビの4つのサブ指数の加重合成指数である。ウェイトとして用いられるのは,Transport i sviaz' に報告されている通信省が提供するこれら各種サービスからの収入である。これは,各サブ指数を作成する際にもウェイトとして用いられる。郵便指数は,手紙,雑誌・新聞,小包,現金為替の合計,電話指数は,市外通話数,電話機数の合計,電報指数は電報の数,ラジオ・テレビ指数は,ラジオ・テレビ受像機数とラジオ送信施設数の合計である。サブ指数データの出所は,Transport i sviaz'Narkhoz である。


      (e)修理・個人日用

    この部門に属するサービスは,洋服の修理・オーダーメイド,家庭用品・自動車の修理,靴の修理,理容・美容,公衆浴場,写真サービス等である。しかしこの部門の指数は,これらの個々のサービスを具体的に計ることによってではなく,包括的に計測された二種類のサービス,すなわち国家提供サービスと,私的に提供されるサービスの加重合成指数として構成されている。その際には,1970年GNPの比率がウェイトとして用いられた。

    国家提供サービスに関するデータは, Narkhoz ,V.I.Dmitriev,op.cit.,L.A.Bobrov,N.V.Gukov and K.S.Gulevich,Ekonomika bytovogo obsluzhivaniia naseleniia,L.A.Bobrov,Ekonomicheskie problemy bytovogo obsluzhivaniia naseleniia 等から得られた。多くの推計が行われている。一方,私的に提供されるサービスのデータは,V.I.Dmitriev,op.cit. から推計された。


      (f)レクリエーション

    レクリエーションの指数は,映画館・劇場の入場者数,リゾート訪問者数,ホテルの従業員数の加重合成指数として構成された。ホテルの従業員数は,個人のホテル支出の代理変数である。また用いられたウェイトは,1970年の支出ウェイトである。映画館・劇場の入場者数,リゾート訪問者数は, Narkhoz から得られたが,ホテルの従業員数については,S.Rapawy,Comparison of US and USSR Civilian Employment in Government,1950-1969 から推計された。選ばれた三つのタイムシリーズ・データが,この部門に属するサービスに関して得られるサンプルのすべてである。


      (g)教 育

    教育サービスの指数は,二つのサブ指数,すなわち人的サービスおよびその他の経常購入の加重合成指数である。ウェイトには,1970年におけるそれぞれの支出シェアが使われる。人的サービス・サブ指数となるのは,教育部門におけるマンアワー単位の雇用量である。具体的には,教育・文化部門の雇用量から文化部門の雇用量を差し引く形で求められるが,その推計に使われたデータは, Narkhoz ,trud v SSSR,Vestnik statistiki 誌あるいはS.Rapawy,Comparison of US and USSR Civilian Employment in Government,1950-1969 等から得られた。一方,その他の経常購入サブ指数は,Ministerstvo financov SSSR,op.cit. 等の国家予算に関する報告書と Narkhoz 等から推計される現行価格表示の購入額を,CIAが構成した不変価格による家計消費指数をソ連公式統計の小売販売指数と比較することによって得られるインプリシット価格指数でデフレートすることによって得られた。


      (h)保 健

    保健部門は,病院,医院,サナトリウム等の医療機関に関わるすべてのサービスをカバーする。この部門の指数の作成方法は,基本的に教育部門と同様である。すなわち保健部門の指数は,人的サービスと,その他の経常購入の加重合成指数である。ウェイトには,教育と同様,1970年のそれぞれへの支出シェアが使われる。マンアワーによる保健部門の雇用量については,S.Rapawyのデータが使われた。その他の経常購入サブ指数の作成方法は,教育部門とまったく同様である。





     
    2.最終需要 (2)投資


    (ア)概  説

    投資の生産指数は,新規固定投資と大修理の合成指標である。さらに新規固定投資は,機械・設備,新規建設およびその他の資本支出,家畜純増の三者の指標から成る。前述したとおり,在庫投資の指数は作成されていない。





     
    2.最終需要 (2)投資

    (イ)機械・設備

    機械・設備の投資は,コルホーズと国営企業・機関によって行われる。既述のとおり,ソ連公式統計のこの指標の信頼性について西側で相当の議論があったにもかかわらず,CIAの指数は,基本的にソ連公式統計に基づいている。つまりデータの出所は,Narkhoz,Kapital'noe stroitel'stvo,Strana soveta za 50 let 等の公式統計集である。これらの統計集には,機械・設備投資は,いわゆる比較価格表示で記載されている。基準年の変更がある場合には比例計算で調整され,1970年を100とする指数に変換されることになる。





     
    2.最終需要 (2)投資

    (ウ)建設およびその他の資本支出

    この部門の投資は,個人住宅建設を含むすべての建物・構築物の新規建設のほか,設計作業,地質探査および掘削等の支出を含む。ソ連では,建設部門の総生産を資本支出として定義している。したがって,下記,3.(2)建設,において導出される建設部門の生産指標は,ここでいう建設およびその他の資本支出と,建物・構築物の大修理との合計である。建設およびその他の資本支出の指数の導出過程は,表D−1に示されているとおり,次の3つのステップから成る。

    @表D−1,第(1)列,建設部門の総生産(現行価格)から,第(2)列,建物・構築物の大修理(現行価格)を控除して,第(3)列,現行価格表示の新規建設その他の資本支出を導く。第(1)列の建設部門の総生産の出所は,1958−78年については,Narkhoz,1950−57年は,R.Moorsteen and R.C.Powell(1966,p.395)である。また第(2)列の出所については,以下の(オ)大修理の項を参照のこと。

    Aこうして得られた現行価格表示の新規建設その他の資本支出を,第(5)列の建設部門のインプリシット価格指数を使ってデフレートし,第(6)列,1970年価格の新規建設その他の資本支出を導く。ただし1979,80年については,第(4)列から得られる建設部門総生産の成長率と,大修理の成長率は新規建設およびその他の資本支出の2倍であるとする仮定によって導かれた。またインプリシット価格指数は,第(1)列の建設部門の名目総生産と,第(4)列の実質総生産とを比較することによって得られる。第(4)列の実質総生産指数は,後出3.(2)建設の項で求められるものである。

    B得られた第(6)列を,1970年を100として指数化したのが,第(7)列である。





     
    2.最終需要 (2)投資

    (エ)家畜純増

    後出,3.(3),(イ),(a)の項で説明されている。





     
    2.最終需要 (2)投資

    (オ)大 修 理

    この部門は,機械・設備と建物・構築物の大修理から成る。大修理の指数は,二つのデフレートされた現行価格シリーズ,すなわち機械・設備の大修理と,建物・構築物の大修理との合計である。両シリーズとも,Scot Butlerの未刊のワーキング・ペイパーからとられている。両シリーズを1970年価格にデフレートするために,別々のデフレータが用いられている。すなわち建物・構築物については,表D−1,第(5)列の建設部門の価格指数が,また機械・設備については,機械部門の総生産に関する現行価格と不変価格との対比によって得られた価格指数が用いられた。





     
    2.最終需要 (3)その他の公共部門支出

    (ア)政府行政サービス

    この部門に属する活動は,次のものである。総合農業プログラム,林業,国家行政と社会組織の行政機関,文化,地方サービス,および警察。政府行政サービスの指数は,マンアワー・タームの雇用量に基づいて構成されたこれら6つの部門の指数の加重平均である。マンアワー・タームの雇用量を指標とすれば,労働生産性向上による生産増加の分だけ成長を過小評価することになる。しかし,信頼するに足る他の方法が見あたらないためこの方法がとられた。また,政府行政サービス指数作成の際に用いられるウェイトは,1970年における最終需要支出額比率である。


      (a)総合農業プログラム

    前述したとおり,この活動には,植物・動物の防疫,獣医サービスと検査,土壌の改良等が含まれる。雇用者数は,いずれも公式統計から得られる国営農業部門における総雇用者数から,「ソフホーズ,農場間企業,その他生産的農業企業」における雇用者数を差し引くことによって得られる。Trud v SSSR から得られるデータによれば,両者の差は,ほぼこの部門の雇用者に一致する。また労働時間は,国営農業の平均労働時間と同じと仮定されているが,そのデータは,S.Rapawy,Civilian Employment in the USSR: 1950 to 1978 から得た。


      (b)林 業

    この部門の雇用者数は公式統計から,またマンアワー雇用量データは,S.Rapawy,Civilian Employment in the USSR: 1950 to 1978 から得ることができる。


      (c)国家行政・社会組織の行政機関

    この部門には,あらゆるレベルの国家行政機関(省,国家委員会等),立法・司法機関,治安・国防の管理機関,労働組合・共産党その他いわゆる社会組織の行政機関の活動が含まれる。データの出所は,林業と同様である。


      (d)文 化

    公共の図書館,博物館,公園,動物園,クラブ,子供キャンプの運営が,この部門の活動によってカバーされる。データの出所は,林業と同様である。


      (e)地方サービス

    このサービスは,主として,街路や地方施設の維持,ゴミの収集,火災予防等々から成る。前述したとおり,この部門の雇用者数は1970年において,ソ連公式雇用統計の「住宅・地域経済および個人サービス」部門の13%を占めると推定されたが,この数字が他の年についても妥当すると仮定された。また,マンアワー雇用量データは,S.Rapawy,Civilian Employment in the USSR: 1950 to 1978 から得られた。


      (f)警 察

    ソ連公式雇用統計に,警察というカテゴリーは存在していない。おそらく警察サービスは,公式統計の「その他の物的生産部門」に含まれているものと考えられる。S.Rapawyは,Comparison of US and USSR Civilian Employment in Government において,そのような考えに立って1966年の警察官数を551,000人と推定した。この数字をもとに,警察官数のトレンドを,国家行政・社会組織の行政機関の同様であると想定して,タイムシリーズ・データを得た。マンアワー・データも,国家行政部門のそれと同様であると仮定されている。





     
    2.最終需要 (3)その他の公共部門支出

    (イ)研究開発

    この部門の指数は,マンアワー・タームの雇用指数と,原材料投入指数の加重合計である。雇用量だけでなく原材料投入が指数に加えられたのは,この部門において明らかに行われていると考えられるある種の製造業タイプの活動も捕捉するためである。ウェイトとして使用されるのは,1970年における両サブ指数に対する支出金額比率である。マンアワー雇用指数へのウェイト(52億9,600万ルーブル)は,賃金と社会保険控除の合計(表B−5,科学の項参照),また原材料投入指数へのウェイト(44億6,300万ルーブル)は,V.M.Rutgaizer,Resursy razvitiia neproizvodstvennoi sfery から推計された。

    マンアワー雇用量データは,S.Rapawy,Civilian Employment in the USSR: 1950 to 1978 から得られる。1980年までへの外挿は,同じ方法論によった。また,原材料投入については,現行価格表示のデータを価格指数によってデフレートし,1970年価格に直すことによって求められた。現行価格表示データは,V.M.Rutgaizer,Resursy razvitiia neproizvodstvennoi sfery 等から推定された。価格指数は,工業10部門の公式価格指数(ただし,機械部門についてのみは,A.Beckerによる)をV.M.Rutgaizer,Resursy razvitiia neproizvodstvennoi sfery から得られる1970年の科学部門の工業製品購入構造によってウェイトづけしたものである。こうして得られた二つのサブ指数を,上記のウェイトを使って合成することによって,研究開発部門の指数が得られた。なお,この部門の指数は,発生部門別GNPの科学部門と同一である。





     
    2.最終需要 (3)その他の公共部門支出

    (ウ)その他の支出

    この項目は,発生部門別GNPから,すべての確認された最終需要項目を差し引くことによって導出されている。





     
    3.発生部門 (1)工業

    (ア)概  説

    R.ConverseによるCIA報告書第U部(JEC,1982,pp.169-244)に基づいて,工業生産指数について説明しよう。工業の生産指数は,312のサンプル品目に基づく指数であって,このうち292品目が,トン,平米,製品個数といった物量ターム,14品目が,公式統計による価値のターム,7品目が,これも公式統計が発表した総生産指数のタームである。

    これら312のサンプル品目は,集計されて72のセクターとなる。集計の際にウェイトとして用いられるのは,1967年7月の卸売価格である。セクターはさらに,1972年IO表による付加価値によってウェイトづけされた上で,10のブランチに統合される。各ブランチはまた,1970年要素費用による付加価値をウェイトとして,3つのグループに統合され,さらに同様のウェイトで工業全体の指数となる。





     
    3.発生部門 (1)工業

    (イ)サンプル

    表D−2に,工業の指数を構成する際に用いられたサンプル数を,部門ごとに示しておいた。出所としたCIA報告書Table,A-1の品目数は,報告書本文のサンプル数と一致していないけれども,表D−2にはTable,A-1から得られる数字をそのまま掲載した。ここでいうサンプル品目とは,たとえば鉄鉱石セクターにおいては,マンガン鉱石および鉄鉱石の2つの品目である。品目データの出所は Narkhoz が多いが,その他にも CMEA Handbook や,さまざまな雑誌等からとられている。しかし,推定をまったく交えずにタイムシリーズ・データが得られる品目は半分以下に過ぎず,あとの品目には何らかの形の推計が含まれている。最も多いケースは,統計資料の中で,年によってデータの欠けている場合である。そのようなときには,欠けている年の成長率が同一であると仮定して,既知の年の値から推計されている。

    前述したとおり,物量データの数は,312品目中292品目と圧倒的に大きいが,1972年IO表から得られる付加価値をウェイトとすれば,その全体に占めるシェアは80%以下になり,したがって過大評価となっていると考えられる価値データ,あるいは指数データの比率は,残念ながらかなり大きくなる。これらのサンプル品目は,1967年7月1日の企業卸売価格をウェイトとして金額化され,表D−2に示した72のセクターにまとめられる。これらのセクター・シリーズは,1970年を100として指数化される。





     
    3.発生部門 (1)工業

    (ウ)セクター,ブランチ,グループ,全体

    サンプルから得られた72のセクターの指数のうち58のセクターは,少なくともその一部には物量サンプルが用いられている。また11のセクターの指数には部分的にしろ価値タームのサンプルが用いられ,5つのセクターはまったく総生産指数のみから構成されている。これらのセクターは,1972年IO表の付加価値をウェイトとして,10のブランチに統合される。これらの10部門のうち,数量データ品目のみによって指数が作成されたのは,サンプルのまったく欠けているセクターの存在を考慮に入れれば,わずかに燃料,電力,建設資材,食品の4つのブランチであり,また最も数量データ品目の割合に小さいのは機械ブランチで,わずかに50%を超える程度である。なお,「その他の工業」ブランチの指数は,工業全体と同じであると仮定されている。

    機械ブランチについての指数の求め方は,他のブランチよりも若干複雑であるので,それを報告書(JEC,1982,pp.241-4)に基づいて簡単に説明しておこう。機械ブランチは,大きく民生機械と軍事機械の二つの部門から構成され,さらに民生機械部門は,生産財と消費財の二つの部門に分かれると考えられる。これらのサブ部門についても,生産指数を求めるために,以下の手続が必要となった。機械ブランチの指数の推計方法は,以下の六つのステップから成る。

    @軍事機械の生産については別途考慮するとして,まず最初に,IO表の機械ブランチに属する各セクターのうち,どのセクターが耐久生産財生産セクターであり,どのセクターが耐久消費財生産セクターであるかを区分けする。この作業のためには1972年IO表はデータ不足であるので,1970年価格で表現された1966年IO表を用いる。27の機械金属部門のセクターのうち,おそらく一つを除くすべての部門が生産財生産セクター,8つが消費財生産セクターとされた。

    A次に,各セクターの指数が,サンプル品目を用いて計算される。このプロセスは他のブランチと同様で,1967年の卸売価格がウェイトとして用いられる。唯一の相違は,生産財と消費財の両方を生産しているセクターについては,それぞれについてサブ指数が求められることである。

    B各セクター,あるいはサブセクター(生産財生産と消費財生産の意)の付加価値を計算する。各セクターについては,1972年IO表から導かれる。そのうち,二つのタイプの財を生産しているセクターについては,1966年IO表における生産シェアをそのまま二つのサブセクターの付加価値のシェアとする。

    C上のAで求めたセクター,サブセクターの指数に,Bで求めた1972年付加価値をウェイトとして掛け,それぞれ合計することによって生産財と消費財の指数を得ることができる。

    Dこうして求められた生産財と消費財の生産指数に,1972年のそれぞれの付加価値を掛け,民生機械の生産指数を得る。

    E上で得られた民生機械の生産指数と,別途得られた軍事機械の生産指数を,1972年のそれぞれの付加価値をウェイトとして加重平均し,工業ブランチ全体の指数とする。軍事機械生産の指数作成に関する詳しい記述は,CIA報告書の中に見あたらない。

    このようにして作成された10のブランチの指数に,要素費用表示の1970年付加価値ウェイトを適用して,三つのグループと工業全体の指数が構成される。三つのグループとは,製鉄,非鉄,燃料,電力,化学,製材・パルプ・製紙,建設資材の各ブランチから成る工業原材料グループ,機械グループ,および軽工業,食品工業の二つのブランチから成る非耐久消費財グループである。しかしこのグループによる分類は,CIA報告書の第U部を除いて,他の部分では使われていない。





     
    3.発生部門 (2)建設

    (ア)概  説

    ソ連経済における建設部門は,建物・構築物の新規建設および大修理,石油・ガス井掘削,建物・構築物の新規建設および大修理に伴う設計作業,および地質学的な調査作業とから成る(USSR Gosplan,op.cit.)。また大半の西側諸国の慣例とは異なって,建物・構築物の新規建設および大修理には,機械・設備の据付費用が含まれている。

    一般に,建設においては,指数を構成するために基準となるような産物を選び出すことが難しく,したがって物量単位の生産指数を作成することが困難である。そこでCIAは,R.C.Powell(1959)以来の伝統にならって,原材料投入の指数を作り,それを建設部門の成長指数とした。つまり,以下で説明するように,54種類の建設部門原材料の,1972年のIO表から得られたウェイトによる加重平均を,建設部門数量指数としている。

    当然のことながらこのやり方は,原材料投入と総生産との比率が一定であることを前提としている。ソ連は,1964−78年における建設部門の総生産額と物的純生産物(NMP)額を現行価格表示で公表しているが,それによるとこの間の総生産に対する原材料費(総生産−NMP)は,57%から54%へとほんのわずか低下しているに過ぎない。また,建設部門の投入と産出の相対価格が大幅に変化したということもなさそうである。したがって,原材料投入の1972年シェアによる加重平均を産出の代理指数としてもそれほどの問題はないというのが,CIAの結論である。

    また,こうして作成された建設部門数量指数と,Narkhoz などから得られる現行価格表示の建設部門総生産額とから形成されるインプリシット価格指数が,リーズナブルな水準と動きを示すこと,また新規建設のみに関するインプリシット価格指数も同様にリーズナブルであることからも,作成された原材料投入指数を建設部門の付加価値生産指標として用いることができるとされている。





     
    3.発生部門 (2)建設

    (イ)指数の推計

    次のようなステップから成る。

    @1972年のIO表から,建設部門に原材料を提供している54部門を選び出す。実際のところ,1972年IO表は88部門であるが,後に使う1959年および1966年IO表に記載のある75部門が対象となる。このうち11部門は,建設部門にまったく投入物を提供しておらず,さらに10部門については,データ不足によってその部門の生産指数を作成することができない。

    A表D−3に示されているように,1972年IO表に基づいて,これらの54部門の建設部門による購入シェアを計算する。つまり,これらの各部門が,建設部門の原材料購入の何%を占めているかを,1972年実績に基づいて計算するわけである。

    B1959,1966,1972年IO表に基づいて,前記54部門のそれぞれについて,その総生産のうちどれだけの比率が建設部門の原材料となっているかを計算する。表D−4では,建設資材部門が例としてとりあげられている。表D−4第(1)列に見られるように,1959年と1966年の中間年,1996年と1972年の中間年は,その変化が線形となるように仮定されている。また1958年以前の比率は1959年と,また1973年以降の比率は1972年と,同一であるとされている。

    Cこうして計算された年々の比率に,この部門の生産指数を掛けて,建設部門による当該部門(表D−4では建設資材部門)の購入指数が計算される(表D−4第(3)列)。

    D54の原材料部門について計算された購入指数に,ステップAで計算された購入シェアを掛け,それを54部門について合計することによって,年々の原材料投入指数が形成される。上で説明したように,これが建設部門の生産指数となる。





     
    3.発生部門 (3)農業

    (ア)概  説

    農業部門は,JEC(1982,p.91)にあるように,毎年の,総生産の成長率と中間投入の成長率との乖離が著しい。このような場合には,ダブル・デフレーション法による推計が望ましいとして,CIAはこの方法を採用している。ダブル・デフレーション法とは,前述のとおり実質化された総生産から,実質化された中間投入を差し引くという方法である。以下,この方法による農業の付加価値の生産指数の推計方法を説明する。





     
    3.発生部門 (3)農業



    (イ)指数の推計

      (a)純生産指数

    CIA報告書の第V部,B.Severin and M.Hughesによる農業生産指数に関する記述(JEC,1982,pp.245-316)に基づいて,農業純生産指数の導出をごく簡単に説明しよう。ここでいう純生産とは,総生産額から,商業部門,運輸・通信部門によるサービスの購入分を控除し,さらに農業部門自身の農業への中間投入を控除した額である。

    まず総生産の指数は,28の作物,10の家畜製品,4種類の家畜在庫変化に関する数量データに基づく。28の作物とは,10種類の穀物(小麦,ライ麦,トウモロコシ,大麦,カラス麦,米,キビ,ソバ,豆,その他の穀物),ジャガイモ,8種類の野菜・果物(果物,ビート,キャベツ,ニンジン,キュウリ,タマネギ,トマト,その他の野菜),9種類の工芸作物(ヒマワリ種,大豆,その他の油作物,テンサイ,綿,タバコ,マホルカ,アマ,茶)である。また10種類の家畜製品とは,牛肉,豚肉,マトン,鶏肉,その他の肉,ミルク,卵,羊毛,蜂蜜,カイコ繭である。さらに家畜在庫変動として利用されるのは,牛,豚,羊・山羊,家禽の4種類である。

    これらのデータは基本的に,ソ連の公式農業統計からとられるが,データの欠けている場合には推計が行われ,また明らかな誤りがあるときは修正が行われる。生産に関するこれらのサンプルデータは,多くの場合個々の品目に関する1970年における平均販売価格をウェイトとして,二つのサブセクターに集計される。一つは作物生産,他方は家畜生産である。平均販売価格が得られないときは,国家調達価格によって代用されるが,これはコルホーズ市場価格を含んでいないので,その点で好ましいものとはいえない。また家畜在庫変動については,家畜数の増減に1970年における一頭(一羽)あたりの平均価格を掛けて計算する。

    農産物の農業への中間投入とは,農産物の飼料や種子としての使用をいう。これらの推計は困難であり,したがって結果の信頼性は総生産にくらべれば小さい。種子に関する推計は,年々の播種面積と,政府が公式に規定した種子比率に基づく。また飼料に関する推計は,公式データに基づいて行われるが,特にジャガイモ,ミルク,野菜などでデータが得られない場合が多く,その信頼性は種子よりもさらに劣る。

    ソ連の農業統計には,多くの欠陥がある。データの公開性の乏しさや信頼性の欠如,統計手続の変更や意図的な歪曲は他の部門と共通するものであろうが,コルホーズに関する資料の相対的な不足は多大な推計作業を不可欠のものとする。さらに,ソ連農業には大規模な損耗が存在することが知られている。この部分の推計は,比較的信頼性の高いと考えられる穀物とヒマワリ種においてのみなされている。したがって,この部分もまた,CIA統計の不確実性の原因となろう。農業純生産の推計結果は,表D−5第(1)列に示されている。


      (b)中間投入指数

    農業部門への他部門からの中間投入の指数作成手順は,建設部門の中間投入指数作成の手順とほとんど同一である。

    @1972年のIO表から,農業部門に原材料を提供している15部門を選び出す。これらの部門を,後に作成する部門別の生産指数作成の便宜から,10部門に統合する。たとえば,投入産出部門としての,「無機化製品」「基礎化学製品」「有機合成製品」「その他化学製品」の4部門を,「無機化学肥料」部門に統合する。

    A1972年IO表に基づいて,これらの10部門の農業部門による購入シェアを計算する。これらの部門からの購入は,1972年における農業部門の非農業部門からの原材料購入の71%を構成しているが,これら10部門からの合計購入額を100%として,各部門が農業部門の原材料購入の何%を占めているかを計算する。この比率が,各部門にウェイトになる。

    B各10部門の,1972年を100とする農業使用量指数を計算する。農業使用量指数計算手順の詳細は明記されていないが,データの出所は,Narkhoz やソ連の諸論文であると書かれている。つまり,たとえば無機化学肥料や電力の使用量指数は Narkhoz から,またスキムミルク使用量指数は工業生産バターの指数と同一であると仮定されている。

    C10の原材料部門について計算された使用量指数に,ステップAで計算されたウェイト,すなわち購入シェアを掛け,それを10部門について合計することによって,年々の原材料投入指数が形成される。


      (c)付加価値指数

    基本的に,(a)で求めた1970年価格の純生産指数と,(b)で求めた1972年価格による中間投入指数を用いる。表D−5は,農業付加価値指数の導出過程を示している。これは,次のようなステップから成る。

    @表D−5,第(1)列は,(a)で求めた1970年価格農業純生産である。

    A第(2)列は,これを,1972年が100となるように指数化した。

    B次に,1972年IO表から求められた同年の農業純生産価値848億ルーブルをもとに,各年の農業純生産を1972年価格で表現したのが第(3)列である。純生産価値848億ルーブルは,購入者価格による農業総生産価値1,147億ルーブルから,商業部門からのサービス購入(46億ルーブル),運輸・通信部門のサービス購入(14億ルーブル)を控除し,さらに農業部門自身の農業への中間投入分(239億ルーブル)を控除した額である。

    C同様に,1972年価格による非農業部門の原材料投入を求めたのが,第(4)列である。これは,(b)で得られた中間投入指数に,1972年IO表から求められた同年の中間投入総額183億ルーブルを掛けることによって得られた。

    D第(5)列は,第(3)列から第(4)列を引いて,各年の1972年価格による付加価値を求めたものである。

    E第(5)列を,1970年が100となるように指数化したのが,第(6)列である。これが,農業の生産指数となる。





     
    3.発生部門

    (4)運輸

    運輸部門の指数作成方法は,消費サービスの項で説明した方法と同様であるが,発生部門別の指標は,乗客輸送ばかりでなく貨物の輸送が含まれることになる。したがって運輸部門の提供するサービスには,鉄道,海上,河川,自動車,航空,石油・ガスパイプライン,都市電力輸送,材木筏輸送,曳航,荷物の積み卸し,および高速道路維持の各サービスが含まれる。

    指数は,16のさまざまなタイプの貨物・乗客輸送の数量データを,1970年の料金でウェイトづけした合成指数である。しかしながらその中に,上述の各運輸サービスのうち,材木筏輸送,曳航,荷物の積み卸し,道路の維持に関する指標はまったく含まれていない。数量ターム(トンキロメートル,あるいは立方メートル等)の各データに,単位あたりの料金を掛けて金額タームに直し,それらを各年について合計する。それを1970年を100として指数化して運輸部門の指数とする。運輸サービスのタイムシリーズ数量データの出所は,Transport i sviaz'Narkhoz ,また運輸サービス別の1970年平均料金の出所は,Transport i sviaz'のほか,各種の資料から推計されている。





     
    3.発生部門

    (5)通  信

    本章,2,(1),(ウ),(d)の通信の項で求めた指数とまったく同一である。





     
    3.発生部門

    (6)商  業

    この部門の活動に含まれるのは,小売商業,公衆食堂,外国貿易,映画レンタル,資材・技術補給,卸売商業,および農産物調達の各活動である。この部門の指数は,この部門で生産される付加価値と,この部門が処理する財の大きさは比例するという仮定に基づいて計算される。作成手順は,以下の通りである。まず最初に,商業部門が,@小売商業,A資材・技術補給を含む卸売商業,B農産物調達の三つのサブ部門に分割される。分割された各部門のそれぞれについて,各部門で処理された財の1970年価格で表現された金額によるサブ指数が作成され,それらが1970年の付加価値をウェイトとして一つの指標に統合される。

    各サブ指数の作成手順は,以下の通りである。

    @国営・協同組合の小売商業網によって処理される財の1970年価格による総額は,次のようにして計算される。CIAによるルーブル表示の個人食料消費指数から,コルホーズ市場と委託販売における販売額,および現物家計消費額を控除し,それにルーブル表示の非耐久財・耐久財消費を加える。こうして,実質タームでの国営・協同組合商業における家計購入額が推計される。

    コルホーズ市場販売額と家計現物消費額を,データの得られる何年かについて,第U章,2.で説明したのと同様の手順によって1970年価格で計算する。データの得られない年については,内挿法によって推計する。その他のシリーズは,CIAの指数に1970年価格を掛けることによって,求めることができる。

    A資材・技術補給を含む卸売商業は,企業間,あるいは企業と小売商業機関との間の財の流通を取り扱う。この指数として,本章3.(1)で求めた電力とその他の工業を除く工業の9ブランチの総生産指数の加重平均を採用する。用いられるウェイトは,第V章において計算された,工業各部門の1970年における生産者価格表示の総生産額である。

    B農産物調達指数は,国営商業機間および国営企業が,ソフホーズ,コルホーズ,および個人から購入した16の農産物によって構成される。これらの農産物の数量データは,1970年の平均調達価格を用いて集計される。

    以上のようにして作成された三つのサブ指数を集計する際のウェイトは,1970年の商業部門の付加価値である。商業部門全体の現行価格表示の付加価値は,既に表B−5において求められているが,これを,上記三サブ部門に分割することが必要になる。付加価値のうち賃金は,Narodnoe khozhiaistvo estonskoi SSR v 1972 g. から得られるエストニアのデータをソ連全体に拡大することによって推計される。利潤と減価償却については, Narkhoz から推計される(以上の手続は,現行価格表示の付加価値の推計である。本来であれば,ここでも要素費用価格表示の付加価値が用いられるべきであったろう)。このようにして,商業部門の付加価値の指数が求められた。





     
    3.発生部門 (7)サービス

    (ア)住宅

    本章2.(1),(a)住宅の指数と同一である。





     
    3.発生部門 (7)サービス

    (イ)公  益

    本章2.(1),(b)公益の項で得られた指数は,住宅ストックと,電力・ガスの家計消費の加重平均であったが,発生部門別の公益の指数は電力を含まない。というのは,都市電力供給網は,工業の電力部門に含まれていると考えられるからである。住宅ストックとガス消費を合成する際のウェイトは,住宅ストック,74.7%,ガス,25.3%とあるが,この数字の出所は不詳である。





     
    3.発生部門 (7)サービス

    (ウ)修理・個人日用

    本章2.(1),(e)修理・個人日用の項で得られた指数と同様,国家が提供したサービスと私的に提供されたサービスの加重平均であるが,用いるウェイトをこれら二つのサービスの付加価値としているため,上で求めた指数と値が異なっている。





     
    3.発生部門 (7)サービス

    (エ)レクリエーション

    この指数も,前項(ウ)と同様,付加価値ウェイトに換えたため,本章2.(1),(f)で求めた指数と値が異なっている。





     
    3.発生部門 (7)サービス

    (オ)教  育

    発生部門別の教育指数は,本章2.(1),(g)で求めた指数の,マンアワー部分のみから構成されている。





     
    3.発生部門 (7)サービス

    (カ)保  健

    この指数も,前項(オ)と同様,本章2.(1),(h)で求めた指数の,マンアワー部分のみから構成されている。





     
    3.発生部門 (7)サービス

    (キ)科  学

    この部門に属するのは,政府各省,あるいは科学アカデミーに付属する科学研究機関の活動である。指数については,本章,2,(3),(イ)研究開発の指数とまったく同一である。





     
    3.発生部門 (7)サービス

    (ク)信用・保険

    この部門は,ゴスバンク,ストロイバンク,外国貿易銀行,貯蓄銀行システム,および保険企業の活動を含む。指数は,マンアワー雇用量に基づく。データの出所は,S.Rapawy,Civilian Employment in the USSR: 1950 to 1978 である。





     
    3.発生部門 (7)サービス

    (ケ)政府行政サービス

    この指数を構成する6つのサブ部門,すなわち総合農業プログラム,林業,国家行政・社会組織の行政機関,文化,地方サービス,警察の各指数については,すでに本章2,(3),(ア)で求めた。ただし,この発生部門別の指標では,本稿表B−5の現行価格表示による付加価値ウェイトが用いられており,したがって6つのサブ部門の指数は同一でも,政府行政サービス全体の指数の値は最終需要別の指数の値と異なっている。





     
    3.発生部門

    (8)軍  人

    現行価格表示の指数と要素費用表示の指数とが作成されており,いずれも徴集兵,将校,および下士官の数が基礎となる。前者は1970年価格で表示されたこれらの軍人に対する賃金,社会保険支払,現物支給支払の合計,後者は徴集兵のコストをその機会費用で置き換えた値が用いられている。なお機会費用の額として,工業の最低賃金が使われている。いずれにしても,明確な数字が与えられていない。





     
    3.発生部門

    (9)その他の部門

    この部門の指数は,GNP全体の指数と等しいと仮定されている。





     

    4.総  括

    以上のようにして求められたGNP構成要素の成長指数が,表D−6表D−7にまとめられている。両表は,いずれも1970年を100としたときの各構成要素の1950,1955,1960,1965,1970,1975,1980年の値を示したものである。

    さらに表D−8は,本章の記述をもとに,最終需要別GNP指数が,いかに構成されたかを表にまとめたものである。表に示されたようにして作成された(1)(2)(3)レベルのカテゴリーの指数は,表C−1に示された要素費用表示のGNPシェアをウェイトとして,a.b.c.レベルの指数へ,また1.2.3.のレベルの指数へ,そしてまたGNPの指数へと統合される。したがってGNP指数は,(1)(2)(3)レベルの各指数に基づくラスパイレス型指数である。なお表D−8では,物量単位のうち,特にマンアワー単位を雇用と表記した。また表中の1.a.(1)食品の指数については,次のようにして求められている。食品の18品目は,いったん動物製品,加工食品,基礎食品,飲料の4つのサブカテゴリーにまとめられる。この際のウェイトが,1970年の現行価格支出額比率である。しかしその4つのサブカテゴリーを,食品指数に統合するときのウェイトは,1970年要素費用価格となる。これが,CIA報告書(JEC,1982)第T部における指数算出方法である。一方同報告書第W部では,食品指数への統合も現行価格によって行われており,これが第T部と第W部の数字の違いを生む原因となっているので注意が必要である。

    次に表D−9は,発生部門別GNPの指数の構造を示したものである。発生部門別構成要素の指数は,多くの場合総生産額によっているが,同表に示したように,建設部門は原材料投入によって,また農業部門は総生産から原材料投入を控除するダブルデフレーションによって求められている。またサービス部門の多くは,投入された雇用量によって,指数が作成されている。こうして得られた各部門の指数は,最終需要別GNPと同様,表C−1に示された1970年要素費用価格をウェイトとして,GNPの指数に統合される。