付 録 1968年SNA抜粋




§4.SNA体系における数量と価格の比較






4−A.比較の種類


4−A−a.最終使用に関する比較
4−A−b.付加価値
4−A−c.本源的投入
4−A−d.証券
4−A−e.所得と貯蓄

4−B.価格とコストの測定


4−B−a.生産者価額と購入者価額
4−B−b.真の基本価額
4−B−c.要素所得価額

4−C.価格接近法と数量接近法


4−C−a.銘柄の相違の取扱
4−C−b.複合生産物
4−C−c.商業および運輸の料金

4−D.価格指標と数量指標


4−D−a.純生産に関する数量指数
4−D−b.最終支出に関する数量指数










§4.SNA体系における数量と価格の比較


4−A.比較の種類

4−A−a.最終使用に関する比較

4−A−b.付加価値

4−A−c.本源的投入

4−A−d.証券

4−A−e.所得と貯蓄









4−A.比較の種類



デフレーシヨン、不変価格による推計等、数量および価格の異時点間比較にあたっては、比較の内容をはっきりさせることが大切である。

商品に対する支出額のように、理論的には支出額を量的要素と価格的要素に分解して比較できるものもあるが、このような分解が困難だったり、無意味な場合もある。









4−A.比較の種類

4−A−a.最終使用に関する比較



異なる2期間の実質消費(たとえば食品の実質消費)を比較するには、次のような手続きが考えられる。すなわち、

 (1)消費された食品の種類をリストし、

 (2)リストされた各種の食品の消費された数量を明らかにし、

 (3)各種類の食品についての評価基準(たとえば基準時の単位あたり価格)を決め、最後に、

 (4)比較時の消費金額を基準時の価格で再評価し、この合計額を基準時の消費金額で除する

という方法である。

この方法の結果は、(1)式に示す数量指数(比較時の数量を基準時の数量で除したものの加重平均)と解釈できる。これは、ラスパイレスの名称で親しまれている数量変化の測定式である。ウエイトには、基準時の支出額比率を使用する。

Σ ( p0q0・( q1 / q0 )) / Σp0q0 = Σp0q1 / Σp0q0 ……………(1)

上記の方法には、理論的にも実際的にも難点がある。

理論的にみた場合、古い方の時期を比較の基準とする(たとえば0時点の価格をもとにして数量を測定する)必然的な理由はない。手続きを逆にして、新しい時期の価格をもとに測定してもさしつかえない。すなわち、(1)式のサフイックスの1と0を入れ替えて新しい期と基準時が入れ替え、更に分子と分母を逆にすると、下記(2)の如く新しい期を基準時とする指数が得られる。これは、数量指数の加重調和平均と解され、パーシェの数量指数とよばれる:

Σp1q1 / Σ (p1q1 ・ ( q0 / q1 )) = Σp1q1 / Σp1q0 ……………(2)

この場合のウエイトは、新しい時点の支出額比率である。

基準時と比較時の相対価格に変化がある場合、ラスパイレス指数は一般にパーシェ指数と等しくならない。両者の中間をとる便法として、両指数の幾何平均(アービング・フィッシャーの理想指数と呼ばれる)を使うこともある。

実際上の問題としては、数量の測定に際し、妥当な単位を選定するには難関がある。たとえば、商品の質的ならびに形態的な変化、新商品の出現、旧商品の消失、消費および価格の季節的なパターンの変化等々のため、しばしば荒っぽい測定単位を用いなくてはならないことがある。









4−A.比較の種類

4−A−b.付加価値



(a)商品生産

粗産出額実質値の測定も、原理的には食料品消費の実質値測定と何ら変るところはない。同様のことが製造業の商品投入の実質値の測定についてもいえる。

不変価格表示の付加価値額は、不変価格表示の粗産出額から不変価格表示の商品投入額を差引くことによって得られる。この方法は、ダブル・デフレーション方式とよばれる。

不変価格表示の粗付加価値の計算には、便法が用いられることがある。この便法は、産出額の数量指数を基準時の付加価値に乗ずるもので、シングル・デフレーション方式とよばれる。

この方法は、投入産出係数行列が不変であるという仮定にたっており、この仮定が成り立たない場合には、計算結果(不変価格の付加価値額)にひずみが生ずる。

(b)サービス活動

一般政府および民間非営利団体を含むサービスの産出額は、これを的確に測定することが難しい。そこで、サービスの産出額は、多くの場合

  最終消費(全産出額)= デフレートされた投入額(労働投入を含む)

とみるか、あるいは、

  純産出額 = 労働の実質投入量

とみることを余儀なくされる。

サービス活動は、その生産性向上の状況も判定が困難である。









4−A.比較の種類

4−A−c.本源的投入



労働投入を、価格要素と数量要素とに分解することはそれほど困難ではない。同様の分解を資本の投入について行うことは、ヨリむずかしい問題を含んでいる。しかし、たとえば、入手不可能な不変買替価格表示(グロス・ベース)の有形固定資産残高の概念を使えば、資本投入のおおまかな近似値が得られるから、これを生産性の測定に使うことができる。









4−A.比較の種類

4−A−d.証券



証券価格の指数を計算して、これから証券の残高を数量化することも可能で である。









4−A.比較の種類

4−A−e.所得と貯蓄



所得の場合には、比較に適当な価格指数が何であるかは必ずしも明白ではない。よく使われる価格指数は消費物価指数(consumer price index,CPI)であるが、そのウエイトとしてどの消費構造を使うかは慎重な考慮を必要とする。

家計貯蓄を資本財の価格指数でデフレートするのは適切ではない。貯蓄(の実質額)は、将来にくりのべられた消費数量であるから、デフレーターとしてはむしろ消費物価指数を用いるべきであろう。









§4.SNA体系における数量と価格の比較


4−B.価格とコストの測定

4−B−a.生産者価額と購入者価額

4−B−b.真の基本価額

4−B−c.価格とコストの測定











4−B.価格とコストの測定

4−B−a.生産者価額と購入者価額



基本価額と商品税とを合計すると、生産者価格表示の商品価額が得られる。生産者価格とは、商品が生産者をはなれる時(輸入の場合は、商品が税関をはなれる時)の価格である。

商業および運輸は、マージン活動である。商品の買い手は、商品価額の他にマージン(商業および運輸の代金)を支払う。したがって、生産者価額に商業および運輸マージンを加えると、購入者価格で評価された商品価値が得られる。









4−B.価格とコストの測定

4−B−b.真の基本価額



「真の」基本価額とは、生産者価額ないし購入者価額の産出額から、直接に支払われる商品税のほかに、投入物に対して(直接ないし間接に)支払われる商品税をも控除したものをいう。換言すれば、

  真の基本価額 = 要素費用の累積額 + 商品税以外の間接税

である。









4−B.価格とコストの測定

4−B−c.要素所得価額



(a)近似価額

付加価値額から間接税(補助金を控除)を差引くと、要素所得価額(あるいは要素費用価額)の近似値が得られる。産出額は要素所得で評価し、また投入額は生産者価額ないし購入者価額によって評価したものだからである。

(b)真の価額

上の計算で、生産者価額ないしは購入者価額からすべての間接税(直接賦課されるか、間接に賦課されるかを問わない)を控除すれば、「真の」要素所得額が得られる。この値は、要素所得額だけの累積から構成されている。









§4.SNA体系における数量と価格の比較


4−C.価格接近法と数量接近法

4−C−a.銘柄の相違の取扱

4−C−b.複合生産物

4−C−c.商業および運輸の料金











4−C.価格接近法と数量接近法

4−C−a.銘柄の相違の取扱



数量指数体系の設定に際しては、個々の数量をしっかり把握することに努力すべきことは言うまでもないが、しかし価格の把握も同等に重要である。数量指数および価格指数を正しく併用すれば、数量接近法によった場合と同一の数量指数が得られる筈だからである。実際面では2つの接近法を結合し、相互に補完させると有利である。

実際には、大ざっぱな数量(たとえば自動車の台数、鉄鋼のトン数など)と、同様に大ざっぱな価格指数とが得られる場合がしばしばある。しかし、自動車を例にとってもわかるように、次々と新型車が現われたりモデル・チェンジが頻々と行われる結果、新しい車の平均的な質は往年のそれとは常に異なったものになる。同様なことは、ほとんどすべての商品に言えよう。

価格および数量に関する大ざっぱな尺度をヨリ精密なものに改善するには、次のような一般原則が役に立つだろう。

 (1)同一の商品でも異なった価格で販売されているものは違う商品として取扱う。

 (2)単一の価格と結びつくような数量単位を選ぶ。

 (3)実際に行われている価格の取り極め方式を把握する。









4−C.価格接近法と数量接近法

4−C−b.複合生産物



機械製造業、建設業のような産業では、その生産物の構成が雑多で、生産物全体の価格を直接に比較することは不可能である。このような場合、理想的には、生産物を価格がつかみやすいような標準的な要素に分割し、これら標準要素を一定の組合せ(モデル)にまとめて、各組合せごとに価格系列を作成して比較を行うことが望ましい。









4−C.価格接近法と数量接近法

4−C−c.商業および運輸の料金



都会で消費される農産物は、種々の流通マージンが加算されるため、同一量の消費でも田舎よりも高くなる。農産物は、それがどこで消費されようと同額に評価されるべきだとの反論もあるが、都会に居住することを選択した人は、田舎では裸価格で入手できる農産物の購入に対して、商業サービスや運輸サービスにもお金を使うことを選んだことを意味する。したがって、数量の測定値にもかかる選択の結果が反映されて当然である。









§4.SNA体系における数量と価格の比較


4−D.価格指標と数量指標

4−D−a.純生産に関する数量指数

4−D−b.最終支出に関する数量指数









4−D.価格指標と数量指標



実質生産高に関する指数を作成するには、原則として価格と数量との両面から接近する必要がある。すなわち、直接数量を測定する方法と、価額系列を価格系列で除して間接的に数量系列を測定する方法とを併用するのがよい。

基準時ウエイトによる実質生産高指数の計算に物価指数を使う必要がある場合、物価指数は(厳密には)比較時のウエイトによるものでなくてはならない。が、この点にあまりこだわる必要はあるまい。実際には、基準時ウエイトの指数を中心とし、これに比較時ウエイトを若干加味するのがせいぜいだろうからである。

指数を作成するにあたって、完全なデータが少ない以上、実際的な妥協はやむを得ない。

何を指標として使用するかは、それぞれのメリットを考慮して決定すべきであるが、適当な指標がない場合は、指数の対象範囲そのものを小さくするか、目的とする価格系列が類似価格系列と同じ動きを示すものと仮定するか、のいずれかしかない。

データの推計にあたって、多くの人々によって詳細に論ぜられる商品(など)はそのウエイトが小さい場合でも多くの時間をかける反面、他の、ちょっと手を加えれば簡単に改善できるウエイトの高い項目(データの収集も比較的簡単で、大ざっぱではあるが不可欠の指標)の改善には時間をかけることを怠る傾向がある。しかし、これは再考の余地がある。たとえば、鋳鉄などのあまりウエイトの高くない項目について精密な分析を行うよりは、石炭の質的変化についてていねいな吟味をする方が重要であろう。









4−C.価格接近法と数量接近法

4−D−a.純生産に関する数量指数



純生産に関する数量指数は、次に述べる生産の諸段階で作成することができる。

 (T)生産高:質、その他の変化をできるだけ調整する。

 (U)生産者による販売高:(T)の指標(生産高)と比較した場合、在庫品の変動が含まれる点が異なる。

(V)引渡し額:在庫変動が調整されていないばかりでなく、(U)と比べるとタイムラグを含む点に問題がある。

(W)労働投入量:労働生産性の変化を調整しなくてはならない。









4−C.価格接近法と数量接近法

4−D−b.最終支出に関する数量指数



最終支出に関する数量指数は、次に述べる種々の側面に着目して作ることができる。

(T)質的変化およびその他の変化を調整した、最終消費者に対する販売数量。

(U)小売業者への引渡し数量。

(V)調整産出量:消費を直接には計測できないが、生産数量に調整を加えることによって間接的に消費を測定できる場合がある。

(W)保税倉庫からの倉出し量。

(X)労働の投入量。

(Y)資本財の完成量:資本財の生産は、当然最終需要として計上されるべきであるが、問題はどの段階において計上するかにある。原則として、固定資本形成は完成ベースで、出来高払の対象となる中間製品は買い手の在庫品として、その他の仕掛品は売手の在庫品として計上する。