付 録 1968年SNA抜粋




§3.所得支出勘定および資本調達勘定



3−A.取引の分類


3−A−a.所得支出勘定
3−A−b.資本調達勘定

3−B.付加価値の構成要素


3−B−a.雇用者報酬
3−B−b.固定資本減耗
3−B−c.間接税および補助金(一般的基準)

3−C.財産所得


3−C−a.一般的定義
3−C−b.利子および配当金
3−C−c.賃貸料および特許使用料

3−D.業主所得


3−D−a.民間の非法人・非金融企業
3−D−b.法人および準法人企業

3−E.貯蓄


3−E−a.定義
3−E−b.補足データ

3−F.純資本移転(定義上の一般原則)

3−G.土地、その他の再生産不可能な有形資産および特定の無形資産


3−G−a.土地の純購入
3−G−b.他に分類されない再生産不可能な有形資産
3−G−c.請求権以外の無形資産










§3.所得支出勘定および資本調達勘定

3−A.取引の分類

3−A−a.所得支出勘定

3−A−b.資本調達勘定











3−A.取引の分類


3−A−a.所得支出勘定



所得支出勘定は、国内生産によって発生した粗付加価値から固定資本の減耗を控除した純付加価値を、制度的部門別ならびに生産要素別に配分して計上する。

要素所得は、雇用者報酬と営業余剰との2つの形態で示される。すなわち要素所得は、各制度的部門に分配される以前に、まず発生制度的部門別の雇用者報酬および営業余剰に分類される。なお非法人企業は、制度的には家計部門に含まれるので、その営業余剰は業主所得および財産所得に細分される。

雇用者報酬は、居住者たる個人の他に、非居住者たる個人に対しても支払われるが、営業余剰および純間接税(間接税−補助金)は、居住者たる制度的部門の所得に対してのみ計上される。

所得支出勘定には、このほかに(1)国の居住者で他の国で雇用されている者が受領する雇用者報酬、および(2)移転所得(財産所得、および準法人業主所得の受払)が計上される。上記の二取引には、居住者間で行われるものと居住者と海外部門との間で行われるものとがある。

居住者の受取る雇用者報酬と居住者の財産所得、および企業準所得の合計が国民所得である。

このほか所得支出勘定では、損害保険、ならびに契約によらない(反対給付のない、経常移転を通じて行われる制度的部門相互間の)所得の再分配が明らかにされる。すなわち同勘定においては、雇用者所得、業主所得、財産所得などの分配所得のほかに、再分配の移転から生ずる所得の受領純額が示される。これらから居住者の可処分所得――国民可処分所得――が導き出され、最後に、居住者によってこの可処分所得が消費支出と貯蓄とにどのように振り向けられたかが示される。









3−A.取引の分類

3−A−b.資本調達勘定



資本調達勘定は、居住者による投資の形態、ならびに資金の調達方法を明らかにする。生産者の主たる投資形態は、粗固定資本形成、および在庫品の蓄積である。その他の投資形態としては、再生産不可能な財貨および特定の無形資産の購入、ならびに居住者および非居住者に対する金融的請求権の取得がある。

粗投資の主要な資金調達源は、所得支出勘定から繰入れられる貯蓄、および付加価値の一要素である固定資本減耗引当金である。その他の資金調達源としては、資本移転、および居住者ならびに非居住者に対する負債の発生がある。









§3.所得支出勘定および資本調達勘定

3−B.付加価値の構成要素

3−B−a.雇用者報酬

3−B−b.固定資本減耗

3−B−c.間接税および補助金(一般的基準)









3−B.付加価値の構成要素



市場価格表示の付加価値は、(1)雇用者報酬、(2)営業余剰、(3)固定資本減耗引当、および(4)純間接税(間接税−補助金)から構成される。営業余剰は、粗付加価値(生産者価格で評価した粗産出と購入者価格で評価した中間消費との差額)から営業余剰以外の3つの付加価値要素((1)、(3)、(4)の合計)を差引いたものとして定義される。









3−B.付加価値の構成要素

3−B−a.雇用者報酬



(1)一般的定義

雇用者(厳密な表現としては、被雇用者;以下同様)報酬は、生産者が支払うあらゆる種類の賃金、俸給(現金支給のほか、現物支給を含む)、社会保障分担金、民間の年金、損害その他の保険金、ならびに雇用者に関する同様の制度の分担金から成る。軍隊の隊員は、その兵役の期間および種類に関係なく、雇用者に分類される。法人企業の活動に従事する者は、理事会のメンバー、役員、支配人等を含め、すべて雇用者とみなされる。

雇用者報酬には、(1)コミッション、チップおよびボーナス、(2)生計手当、および物価手当、(3)休暇、病気休暇、離職休暇中の業主からの支払、(4)牧師等聖職者に対する謝儀、(5)社会保障、民間年金、損害保険および類似の制度に関する分担金、および(6)現物給与(たとえば、食品、宿泊、衣料品に関する雇用者の授受)が含まれる。労働者の雇用に対して支払われる賃金、俸給その他は、原則として、支払の義務が生じた時点、すなわち雇用者が労働力を提供した時点を基準として記帳される。雇用者の報酬は、さらに、(T)現金ならびに現物で支給される賃金、俸給、(U)雇用者のための社会保障制度に対する雇主の分担金、および(V)雇用者のための民営の年金保険、労災保険、その他の保険、ならびに類似の制度に対する雇主の分担金、に細分される。

雇用者報酬に含まれない項目としては、(a)業主により直接支給されない家族手当、(b)雇用者が企業目的のために負担した旅費等の支出で業主から払い戻しを受けるもの、(c)年金の支払等がある。

なお、軍隊の隊員とそれ以外の雇用者とは、雇用の形態ならびに雇用者報酬の決定要因が基本的に違う。だから、両者は区分して考えるべきである。

(2)現物支給

現物で支給される賃金・俸給には、無料ないしは著しく安い値段で雇用者に支給され、しかも主として(消費者としての)当該雇用者の便益になることが明らかな財貨サービスが含まれる。

雇用主の支出のうち、雇用者の便益にもなるが、同時に雇用主の便益になるものは、雇用者報酬に含めないで中間消費に計上すべきである。たとえば、職場を快適にするための支出、健康診断、スポーツ、その他のレクリェーション施設の費用、雇用者が雇用者としての任務遂行上支出した旅費や遊興費および類似の支出で、雇主から払い戻しをうけるもの、など。他方、雇用契約に基づいて、雇用者が業務を遂行する上で必要な道具、備品、特別な衣服などを購入する場合は、これらの費用は賃金・俸給の額から差引かれる。

軍隊の隊員に対して、無料で支給される食品、飲料、煙草および制服を含む衣服は、賃金および俸給の一部とみなされる。しかしながら、軍人でない軍隊雇用者に対して無料で支給される制服その他の作業衣は、現物給与に分類すべきではない。









3−B.付加価値の構成要素

3−B−b.固定資本減耗



(1)範囲

固定資本減耗引当は、通常、会計期間中の生産過程で消耗した固定資産を代替するために使用される産出額と定義される。個々の資産の耐用年数を基準として計算され、物理的な消耗のほかに、予測可能な旧式化や災害による修理不能の損傷などをカバーするための出費も計上される。

これに対して、予想し難い旧式化が現実に発生した場合には、固定資本減耗としてでなく、その発生時点におけるキャピタル・ロスとして取扱う。

天然資源の消耗は、固定資本減耗には含まれない。

一般政府の資産、たとえば、道路、ダム、防波堤、その他の建造物(構築物を除く)については、計算が実際上難しいため、固定資本減耗は計上しない。(かかる資産については、修理費・維持費等の支出によって、その原状が維持されているとみなす。)

(2)評価

固定資産の数量と質に変化がみられないような安定した経済においては、固定資本消耗額は、年々の(資産の)代替と等しいとみなせよう。

需要の変化がはげしく、また技術変化のために資本財がすぐ旧式化してしまうような経済においては、資本消耗の推定はやっかいなものとなろう。このような場合に適用すべき一般原則はみあたらないが、個々の資産の経済的な耐用年数を基礎とする定額法により固定資本消耗を推計するのが適当と考えられる。

(3)推計

通常、企業(生産者)は、資本財の消耗、および予期できない旧式化等に対する年々の引当額を計算する場合、当該資本財の当初のコストを耐用年数に割振るという方法をとる。これは、資本の名目価額を減耗引当の変動による不安定な変動から守るためである。しかし、この方法には問題がある。というのは、価格や技術は絶えず変化するため、当該固定資産の利用価値は、このような方法で償却した価額よりも大きくなったり、逆に小さくなったりする場合が起こり得るからである。したがって固定資本消耗の推計は、推計の行われる時点で当該資産を買い換えた場合のコスト(replacement cost)を基礎として計算すべきである。

ただし、計算を実際に行うのは困難である。というのは、入手されるデータが、(多くの場合)生産者が実際に行った減耗引当額によっているためである。にもかかわらず、資本財の価格水準に変化が認められるときには、(企業)が実際に行った減耗額に何らかの調整を加えることが望ましい。

国民勘定の立場から行われるこの種の調整は、かなりの額にのぼり、誤差の幅も大きいものとなるかもしれない。









3−B.付加価値の構成要素

3−B−c.間接税および補助金(一般的基準)



市場価格表示の付加価値から間接税を控除し補助金を加えると、要素所得表示の付加価値が得られる。

国民勘定における間接税は、これを生産者から政府に対する強制的支払とみなし、生産を行なう上での一種の支出として取扱う。同様の理由から、補助金は政府から生産者に対する経常移転とみなし、生産者における生産に関する所得の付加額と考える。

SNAは、家計は生産に従事せず、生産勘定をもたない仕組みとみなしている。したがって、家計は政府に対して間接税を直接支払うことはないし、また補助金を受領することもない。









§3.所得支出勘定および資本調達勘定


3−C.財産所得

3−C−a.一般的定義

3−C−b.利子および配当金

3−C−c.賃貸料および特許使用料











3−C.財産所得

3−C−a.一般的定義



財産所得は、ある経済主体が他の経済主体の所有する金融資産、農地、その他の土地、あるいは著作権、特許権のような無形資産を使用する場合、これらの使用を原因として生ずる所得の移転(実際の移転および帰属計算による移転)として定義される。もっとも代表的な財産所得は、金融資産、負債に関連した利子および配当金、土地、特許権、著作権等に関連した純賃貸料および特許料、印税等である。所得移転の形態は、経済の制度的構造および仕組みによって異なる。

利子、配当金、純賃貸料、特許料等のフローは、債権発生時点で記録される。









3−C.財産所得

3−C−b.利子および配当金



利子は、(1)銀行その他の預金、証券、債券、手形およびその他の信用供与、(2)売掛金および買掛金、取引先に対する前貸金および前借金、(3)生命保険の準備金、年金基金に対する家計の持分等の金融的請求権に関して生じた財産所得である。









3−C.財産所得

3−C−c.賃貸料および特許使用料



原則として財産所得に計上すべき賃貸料は、ある経済主体が他の経済主体の所有する土地を利用することに関して生ずる純賃貸料である。

財産所得に計上すべき土地の賃貸料は、原則として純賃貸料に限定される。賃貸料(グロス・ベースの賃貸料)のうち、取引きコストに相当する部分は、商品タイプのサービスの売買として生産勘定に計上すべきである。

土地の純賃貸料と同一のカテゴリーに属するものに、特許料などがある。これは特許権、商標権、著作権、その他類似の独占的権利を使用する場合の代償である。









§3.所得支出勘定および資本調達勘定


3−D.業主所得

3−D−a.民間の非法人・非金融企業

3−D−b.法人および準法人企業











3−D.業主所得

3−D−a.民間の非法人・非金融企業



業主所得は、営業余剰から、当該企業が支払う財産所得を差引いた残余である。ここでいう家計部門に含まれる民間非法人企業の営業余剰は、業主所得と、(要素所得の発生した制度的部門勘定から支払われる)財産所得とから構成される。

財産所得とは、企業の持主でない者に対して支払われる、企業の関係から生じた利息、賃貸料、および特許料等の支払義務、の合計である。ここでいう利息は、企業目的で借入れた資金について生じたもの、または買掛金の決済の遅延から生じたものである。賃貸料は、非法人企業の活動に使用される農地、その他の土地に関連して発生する。構築物、機械整備などの賃貸料は、企業の中間消費に計上される。また特許料は、特許の対象物の生産、特許の対象となる生産工程の使用、著作権の対象物の出版、放送等から生ずる。









3−D.業主所得

3−D−b.法人および準法人企業



法人および準法人企業の業主所得は、営業余剰から第二者に支払われる純財産所得を差引き、さらに配当金を除いたものに等しい。

法人企業および準法人企業は、利子、賃貸料、特許料を取得する場合がもちろんあるし、またこの種の財産所得を支払う義務を負う場合もある(たとえば、売掛金あるいは金融資産から生ずる利子の受領、土地の賃貸料の取得等)。ただし、政府企業(準法人である非金融企業に分類される)の場合には、この種の財産所得を受領する可能性は少ない。









§3.所得支出勘定および資本調達勘定


3−E.貯蓄

3−E−a.定義

3−E−b.補足データ




3−E.貯蓄



粗投資の資本調達源は、貯蓄(上記の2つの勘定を結びつける役目を果す)、固定資本減耗引当、資本移転、および負債の純発生額である。粗投資は、粗資本形成、土地の純購入、その他の再生産不可能な有形資産、およびある種の無形資産の純購入および金融資産の純取得から成る。









3−E.貯蓄

3−E−a.定義



貯蓄は、居住者の経常的受取額の合計から支払額の合計を引いた残高である。貯蓄の概念からは、キャピタル・ゲインおよびキャピタル・ロスは除かれる。

法人企業の貯蓄の場合は、支払配当金を差引く。準法人企業(非金融単位および金融機関)の貯蓄は、業主所得の引出しを控除したものとする。年金基金の貯蓄は基金の投資に使用されるが、その貯蓄の全額は利子の形態で家計に移転(個人の持分として貸記)される。一方、生命保険会社の貯蓄は、保険会社準備金に対する加入者の持分にくり入れられる利子を除いたものである。









3−E.貯蓄

3−E−b.補足データ



ある国の国民勘定に記録される法人および準法人の非金融企業および金融機関の貯蓄には、非居住者たる企業の支店ないし子会社の貯蓄(留保された準所得)が含まれる。









§3.所得支出勘定および資本調達勘定


3−F.純資本移転(定義上の一般原則)



開放経済においては、海外からの純資本移転が、海外からの純借入れとともに、粗投資に対する一つの資金調達源を形成する。









§3.所得支出勘定および資本調達勘定


3−G.土地、その他の再生産不可能な有形資産および特定の無形資産

3−G−a.土地の純購入

3−G−b.他に分類されない再生産不可能な有形資産

3−G−c.請求権以外の無形資産











3−G.土地、その他の再生産不可能な有形資産および特定の無形資産

3−G−a.土地の純購入



土地の概念には、地下の埋蔵物、森林、湖水を含むが、地上の構築物は含まない。

土地の開発および改良は、資本形成の一部として計上される。

土地の売買は、居住者の間でのみ行われるという前提で処理する。非居住者が土地を買った場合は、名目的な居住者機関を設けて、かかる機関が土地の所有者となり、土地を購入した外国人の所有者は、この名目的な機関の正味資産(土地の購入者価格に等しい)を取得するものと考える。

「土地の純購入」の額には、売買取引に関連した移転コスト(仲介者の手数料、名義変更等の法務サービス費用および調査費用等)は含まれない。かかる移転コストは、取引が行われた会計期間の固定資本形成計上される。









3−G.土地、その他の再生産不可能な有形資産および特定の無形資産

3−G−b.他に分類されない再生産不可能な有形資産



土地以外の再生産不可能な有形資産とは、美術品、骨董品、稀覯本、切手、貨幣などである。

ただし、ある国の居住者たる芸術家が新たに制作した美術品の初回の取引は、「他に分類されない再生産不可能な有形資産および無形資産の純購入」には計上せず、最初の購入者が家計である場合には、耐久財に対する最終消費支出として、また最初の購入者が産業、一般政府または家計に奉仕する民間非営利団体の場合には粗固定資本形成として、また最初の購入者が非居住者の場合には輸出として計上される。新しく作成された切手、貨幣、書籍等が、収集を目的として初回に購入された場合も同様である。

再生産不可能な有形資産の購入代金は、取引に関連したディラー・マージンなど移転費用を控除した額を記入すべきである。ディラー・マージンなどの移転コストは、粗固定資本形成に向けられる商品(サービス)の生産として取扱われるべきだからである。









3−G.土地、その他の再生産不可能な有形資産および特定の無形資産

3−G−c.請求権以外の無形資産



無形資産のうち、その売買が負債と対になっていない無形資産は、この項目にフローとして計上される。かかる無形財産の例としては、鉱業埋蔵物の採掘権、漁場権、土地の賃借権、特許権、著作権、商標権等があげられる。

ここでいう無形資産の取引は、これら専用権の一度限りの移転(譲渡、取得)等である。(鉱業権、特許権、著作権等の期限付き転貸などは、財産の売買ではないから無形資産の純購入とはみなされない。)

無形資産の一度限りの取引は、固定資産の売買と似た性質をもっているが、これは当該資産の耐用期間中、これから生ずる所得を取得し、かつこれを自由に処分する権利が移転するからである。

金融的請求権以外の無形資産の純購入額は、再生産不可能な有形資産の取引の場合と同様、当該資産の購入代金から手数料、法務費用およびその他の移転費用を控除した額に等しい。上記の手数料、法務費用およびその他の移転費用は、商品(サービス)の生産として取扱われるべきものであり、粗産出に計上される。この粗産出は、購入者の中間消費として処理される。

売買の当事者が居住者同志である場合には、国民経済全体としては売買が相互に相殺される結果、海外からの金融的請求権を除けば、無形資産の純購入額が取引の合計額と等しくなる。

(注:参考までに、支出と生産との関係を表A2に示す。)