付 録 1968年SNA抜粋




§1.財貨サービスの供給および使用



1−A.財貨サービスの総産出


1−A−a.商品生産の一般定義
1−A−b.市場で販売されない産出物
1−A−c.金融機関
1−A−d.一般政府、および家計に奉仕する民間非営利団体のサービス
1−A−e.商品の分類

1−B.中間消費


1−B−a.産業の中間消費の定義
1−B−b.固定資本形成と中間消費

1−C.付加価値生産額

1−D.粗資本形成


1−D−a.粗固定資本形成の定義
1−D−b.定義上の問題
1−D−c.固定資本形成と中間消費の定義上の相違点
1−D−d.軍事施設
1−D−e.資本的修理と経常的修理
1−D−f.開発のための支出
1−D−g.構築物
1−D−h.粗固定資本形成の分類

1−E.財貨サービスの輸出および輸入













§1.財貨サービスの供給および使用



生産勘定に計上される商品の供給は、居住者たる生産者の粗産出と輸入から成る。

商品とは、原則として市場で売買される財貨サービスをいう。

生産者は、産業、サービス生産者としての一般政府、および家計に奉仕する民間非営利団体に分類される。産業は、さらに生産者の種類別に細分される。

国内生産の推計は、まず居住者たる生産者の粗産出高を求めることから出発する。

財貨サービスの供給は、中間使用と最終使用とに向けられる。財貨サービスの中間使用は、産業、サービス生産者としての一般政府、家計に奉仕する民間非営利団体のそれぞれの生産勘定に記帳される。

財貨サービスの最終使用は、最終消費、粗資本形成(在庫品および固定資本の蓄積)、および輸出に分かれる。一般政府機関、民間非営利団体および家計は最終消費支出を、また産業、およびサービス生産者としての一般政府は在庫品の蓄積と固定資本形成との両方を行う。

産業の中間消費は、全面的に商品から構成される。しかし、サービス生産者としての一般政府が海外で直接行う経常購入(中間消費にあてられる)は、商品以外の財貨サービスの獲得として分類される。

家計の最終消費支出にも、商品とそれ以外の財貨サービスとが含まれる。すなわち、家計の支出のうち、一般政府および民間非営利団体のサービス購入および居住者たる家計の海外における直接購入は、非商品購入として分類される。

産業、一般政府、民間非営利団体の粗資本形成のための支出は、すべて商品に向けられたものとして取扱う。

輸出された財貨サービスは、すべて商品として取扱う。ただし、非居住者たる家計が国内の市場で行った直接購入は、家計の消費支出勘定に記帳する。

(注:参考までに、生産と供給の関連図式を表A1に示す。)









§1.財貨サービスの供給および使用


1−A.財貨サービスの粗産出

1−A−a.商品生産の一般定義

1−A−b.市場で販売されない産出物

1−A−c.金融機関

1−A−d.一般政府、および家計に奉仕する民間非営利団体のサービス

1−A−e.商品の分類











1−A.財貨サービスの粗産出

1−A−a.商品生産の一般定義



(a)生産

生産された財貨には、販売されるもの、生産者の仕掛品、製品在庫、生産者の固定資本形成に向けられるもの、などがある。

サービスの生産は、サービスが提供された時点で発生する。

商業の場合には、生産は,財貨が販売された時点、すなわち財貨の所有権が移転した時点で発生する。

(b)評価

商品(ただし、商業・サービスを除く)の粗産出高は、市場における生産単位の販売価格(生産者価格)で評価される(市場価格表示)。

流通部門の粗付加価値額(粗産出)は、財貨が購入されたと同じ条件で当該財貨が売られた場合に得られるグロス・マージン(すなわち、販売額から流通業者に引き渡されるまでのコスト)を差引いた額で評価される。

財貨サービスの生産額は、純商品税(間接税マイナス補助金)を差引いて評価することがある(要素費用表示という)。









1−A.財貨サービスの粗産出

1−A−b.市場で販売されない産出物



財貨サービスのうちには、市場で販売はされないけれども、市場で販売される財貨サービスと本質的に同様の性質を有するものがある。たとえば、農業生産物のかなりの部分は、農業家計で消費される。また同一企業内で、各生産部門相互間に商品の供給が行われることはめずらしくない。たとえば、生産者が自家使用のために資本財を製造することもあるし、賃金・報酬の中には、生産者の産出物(財貨サービス)が含まれることもある。持家の所有者がうける帰属住宅サービスも、市場を通じない取引である。

自家生産の産出高は、市場における生産単位の販売価格(生産者価格)で評価される。

同様に、持家住宅の粗家賃も市場価格表示の評価原則にもとづいて計上される。帰属粗家賃には、住宅投資から得られる賃貸料などの収益運営費、維持費、修理費、水道料、保険料、税金、減価償却費、抵当権の利子なども含める。市場において賃貸されない民間・非民間の所有住宅についても、同様の帰属計算が必要である。

(a)自家生産による固定資本形成

自家使用のための固定資産の生産は、すべて原則として商品の粗産出高に加えるべきである。家計ないし一般政府機関が、構築物、通路などの自家建設に従事する場合もこれにあたる。民間企業が自家生産する工具、器具、容器なども、1年以上の耐久物については、粗産出高に計上するべきである。

自家生産の固定資産は、原則として市場で売られる同一製品の生産者価格で評価されるべきである。しかし、これは実際には難しいことが多い。ふさわしい市場価格を見出すことができない場合もあろう。そのような場合には、コスト(市場価格に通常含まれる利潤は除く)によって評価するほかはない。

(b)実物給付による賃金・報酬の支払

産業が、無料ないし非常に安い値段で雇用者に与える財貨サービスのうち、明らかに雇用者(厳密には被雇用者(employees)、以下同様)の利益となるものは、産業の総産出、およびA賃金・報酬の支払に含めて計上すべきである。総産出に含められたかかる財貨サービスの最終使用は、当然のことながら、家計の最終消費にも計上される。また、この種の財貨サービスの総産出額は、生産コストによって評価すべきである。

(c)中古品

中古の固定資産を売った場合、当該取引に占める粗付加価値は、ディラーのマージンとその他の移転コストとの合計額に限られる。この場合、売手は販売収入を全額マイナスの固定資本形成として、最終的な買手は購入代金の金額をプラスの固定資本形成として、それぞれ計上する。一方、仲介者として流通、その他の移転サービスを提供した企業は、そのサービス料を粗産出高として計上する。

土地、骨董品、切手収集、貨幣、中古の珍本など、再生産不能な有形資産の取引も、当該取引から生ずる粗産出はディラー・マージンおよびその他の移転費用に限られる。









1−A.財貨サービスの粗産出

1−A−c.金融機関



販売金融会社、対個人金融会社、銀行および類似の金融機関、保険会社および年金基金にあっては、その産出高は、これら機関がその活動に対する対価として受領する収入額と等しくない。

(a)販売および対個人金融会社

販売金融会社や、類似の金融会社が貸付に対して徴収する料金は、利子と貸付金の許与および集金のためのサービス料金とから成る。この場合、これら機関の総産出は、サービス料金の部分に限られるべきである。貸付に関するサービス料を2つの要素に分けて経理する原則は、対個人金融会社の貸付の場合にも同様に適用すべきである。

(b)銀行および類似の金融機関

商業銀行、貯蓄銀行、相互銀行、その他類似の金融機関においては、直接のサービス料金はその収入の小部分を占めるにすぎない。もし銀行および類似の金融機関の取引を他の産業の取引と同様に取扱うならば、その営業余剰は――多分付加価値自体も――マイナスとなろう。この変則的な現象は、現実に支払を受けるサービス料のほかに、帰属サービス料を加えることにより避けることが出来る。

帰属サービス料は、原則として、銀行および類似の金融機関が、預金を元手とする貸出およびその他の投資によって受領する財産所得から、預金利息を差引いた額に等しいものとする。(自己資金の投資から受取る財産所得は、理論上は帰属サービス料の計算に含めるべきではない。)

銀行および類似の金融機関が行う主要なサービスは、他の経済主体の貯蓄を産業に対する貸出しに振向ける仲介者としての活動である。それゆえ、帰属サービス料は、産業の中間消費である。しかし、帰属サービス料は各産業にこれを配分することができない。そこで、名目的な産業部門を設け、帰属サービスはすべてここの中間消費として取扱う。当然のことながら、この名目的な産業の経常余剰(それは、そのまま付加価値)は、帰属中間消費相当額だけマイナスとなる。所得支出勘定においては、この名目的な取引単位は金融機関として分類される。このとき、所得支出勘定においては、この名目的な金融機関のマイナスの営業余剰と、銀行および類似の金融機関のプラスの営業余剰からこれらの金融機関が実際に受領したサービス料を差引いた額とは、互に相等しい。

(c)保険および年金基金

損害保険、生命保険、年金基金の保険料金には、保険のサービス料と保険リスクに対する支払とが含まれる。生命保険と年金基金の場合には、このほかに貯蓄の要素が含まれる。

保険業については、その商品生産(提供された保険サービス)のグロス・ベースの価額を計上するには、保険サービスに対する料金を他の要素から分離する必要がある。たとえば、損害保険の場合、一定期間の保険のリスクに対する支払は、同期間中に等しい。したがってサービスに対する料金は保険会社が受領した保険料と支払った保険金との差額に一致する。生命保険の場合、サービス料は、〔受領した保険料〕から〔支払った保険金と支払準備金の純増額の合計〕を差引き、これからさらに〔支払準備金について加入者に支払うべき利息〕を差引いた額に等しい。

加入者側からみたとき、損害保険のサービス料金は、生産者では中間消費に、家計では最終消費に計上される。生命保険のサービス料は、家計の最終消費に含められる。

年金基金のサービス料は、基金の管理費と同額と考えられる。











1−A.財貨サービスの粗産出

1−A−d.一般政府、および家計に奉仕する民間非営利団体のサービス



一般政府および家計に奉仕する民間非営利団体のサービスの粗産出額は、サービスの生産コストと等しい。このコストは、商品ないし非商品である財貨サービスの中間消費と、付加価値とから成る(営業余剰は含まれない)。付加価値は、雇用者報酬、固定資本減耗、および直接支払った間接税によって構成される。固定資本減耗は、道路、橋梁およびその他の建設物(構築物を除く)以外のすべての固定資産について計上する。

一般政府および家計に奉仕する民間非営利団体の総産出のほとんどは、非商品の財貨によって構成される。産出物のうち商品一般にこれら機関の産出物のうち商品として販売されるのは、比較的小部分を占めるに過ぎないが、産業に対して販売されたサービスおよび財貨は、一般政府および民間非営利団体が産出した商品として扱う。

家計に奉仕する民間非営利団体の一般政府に対するサービスの販売も、商品生産として計上されるべきである。しかし民間非営利団体政府に対する販売または産業に対する販売が、生産活動の大部分を占め、かつその販売代金が生産コスト全額をカバーする場合、かかる団体は民間非営利団体とせず産業とみなすべきである。また民間非営利団体の単位(たとえば、大学の調査部または技術開発部など)についてこのようなことが当てはまる場合がある。一般政府機関の活動のうち、自家建設、政府出版物の印刷販売などに関する活動は産業に分類すべきであるが、独立の事業所の活動の形に分離できない場合でも、商品の総産出の一部として計上すべきである。

最後に、一般政府ならびに家計に奉仕する民間非営利団体が家計に対して行うある種の財貨サービスの販売のうちには、商品の販売として取扱うべきものがあることを指摘しておく。この種の財貨サービスは、一般政府ないし民間非営利団体によって全面的に産出されたもので、かつ、ほぼ生産コストに見合った価格で販売されるものでなくてはならない。この種の例としては、博物館の複製品、身体障害者の訓練所の手芸品、官営森林で生産される薪木の販売などがあげられる。これに対し、一般政府または民間非営利団体が運営する病院において、支払能力のある者に対して十分コストをカバーするに足る治療代が請求される場合、治療代の支払は商品購入に分類される。基本的な治療費は無料で特別室の使用など特別な取扱いについてのみ代金の支払が要請されているとすれば、この特別料金は非商品の購入に分類すべきである。









1−A.財貨サービスの粗産出

1−A−e.商品の分類



(a)分類の性格

産業の分類と直接結びついた商品分類を採用する。

第5章の第1表に示した、産業分類の細分項目をベースとする商品分類(商品を、各細分項目の産業の特徴的商品グループに分類したもの)は、国際比較の諸目的を充分満たすものと考えられる。

(b)分類の発展

適切な商品分類を作成するには、詳細な産業分類が必要である。商品分類は、国際標準貿易分類(改訂SITCの細分項目(サブ・グループ)と、改訂SITCの細分項目(グループ)とをリンクする形で作られるのが望ましい。*4









§1.財貨サービスの供給および使用


1−B.中間消費

1−B−a.産業の中間消費の定義

1−B−b.固定資本形成と中間消費











1−B.中間消費

1−B−a.産業の中間消費の定義



産業の中間消費は、非耐久財とサービスに対する支出によって構成される。中間消費支出には、中間商品の事業所への引渡しに要した費用――当該商品の生産者価格、流通および輸送上のマージン等――はすべて含まれる。中古品、スクラップ、廃品のほか、無形資産の購入に関するディラー・マージン、その他の移転費用なども含まれる。

これらの購入商品は、できるかぎり、購入者価格――消費者たる事業所に引渡された時点の市場価格、すなわち商品が生産単位に入った時点の価格――で評価されるべきである。これは、中間消費のための支出が、当該商品の消費される時点の価額、すなわち買替え費用になるべく等しくなるようにするためである。









1−B.中間消費

1−B−b.固定資本形成と中間消費



生産者勘定では、工具・小規模な機械等は、通常中間消費として記帳する。しかし、理論的には、これらの支出のうちには資本支出に計上すべきものがある。

たとえば、企業会計において中間消費として取扱われている修理等の支出の中には、資本支出と考えるべきものがある。すなわち、固定資産の耐用年数を延長するような、または生産性を著しく高めるような支出、たとえば機械、設備、工場、その他の構築物の基本的な変更追加、増築等は、資本支出として取扱うべきである。これに反して、機械等の固定資産を正常な状態に保持するために要する修理費、維持費等の支出は、中間消費に分類すべきである。住宅およびその他の構築物の場合も、ペンキの塗り替え、下水および水道の修理、照明や暖房装置の修理等は、中間費用に含めるべきである。

また、生産に従事する農園、耕地、植物園、炭坑などの諸支出のうち、開発、拡大のために支払われた代金は、固定資本形成に計上すべきである。この種の支出の例としては、土地の整備、開発、灌漑、鉱抗の拡大、新植樹園の植樹、新しい果樹園の植付け、栽培等、数年後にその果実が得られるものへの支出などがあげられる。当然のことながら、これらの果実が収穫されるようになってからの植付費用は、中間消費に計上されるべきである。

産業が調査、開発のために行う財貨の消費は、企業会計では資本支出として取扱われることもあるが、SNAにおいては中間消費支出として計上される。広告、市場調査、PR等、企業ののれんの価値を高めるために行う活動の費用についても、同様の取扱いがなされるべきである。









§1.財貨サービスの供給および使用


1−C.付加価値生産額



粗付加価値額の推計には、3つの方法がある。

(1)生産者価格(市場における生産単位の販売価格)で計測した1会計期間の粗産出額から中間消費の額を差引き、この額に輸入関税を加える方法。この額は、各生産単位が国内粗生産に貢献した額を示す。

(2)市場価格で計測した財貨サービスの最終使用額を合計し、これから財貨サービスの輸入額(c.i.f)を差引く方法。この方法において、輸入がc.i.fベースで評価されている場合は、居住者たる生産者が提供する輸送および保険サービスは(居住者が購入するか非居住者が購入するかにかかわりなく)これを差引いて、輸出に計上すべきである。

(3)生産から生ずる所得の総額を求める方法。すなわち、固定資本減耗引当、雇用者報酬、営業余剰、および純商品税(間接税マイナス補助金)の合計。









§1.財貨サービスの供給および使用


1−D.粗資本形成

1−D−a.粗固定資本形成の定義

1−D−b.定義上の問題

1−D−c.固定資本形成と中間消費の定義上の相違点

1−D−d.軍事施設

1−D−e.資本的修理と経常的修理

1−D−f.開発のための支出

1−D−g.構築物

1−D−h.粗固定資本形成の分類











1−D.粗資本形成

1−D−a.粗固定資本形成の定義



粗固定資本形成とは、産業、サービス生産者としての一般政府、および民間非営利団体における、再生産可能な固定資産のストックの増加額である。固定資本形成の対象となる財貨サービスとは、

(1)再生産可能な耐久財および固定資産の改良ないし変更のための特定の支出、

(2)再生産不可能な耐久財のディ−ラー・マージンおよびその他の移転コスト、ならびに

(3)居住者によって新たに制作された美術品

からなる。

再生産可能な耐久財とは、原則として耐用年数1年以上のもの――たとえば機械、輸送用その他の機器、構造物、その他の建設工事――である。

改良、変更のための特定の支出とは、有形資本財の耐用年数、または生産性を相当程度高める支出をいう。

ただし、主として軍事目的のために一般政府が行う再生産可能な耐久財の支出,またはこれら耐久財の改良・変更のために行う支出は粗固定資本形成には含めない。

移転コストのみが計上される再生産不可能な耐久財の例としては、土地、鉱業埋蔵物、立木、骨董品、居住者たる芸術家の新規制作によらない美術品等があげられる。

固定資本形成に計上される商品には、国内で生産されるものと輸入されるものとがある。

固定資産の取得額には、取得に直接関係のあるすべてのコストと、当該耐久財を使用できる状態におくための据付け費用とを含む。したがって固定資産の取得額は、

(a)当該固定資産の購入者価格、

(b)関税その他の間接税、

(c)輸送引渡据付け等の費用、

(d)当該資本財に直接関係のある予備的支出(敷地の整備、建築技師、機械技師に対する支払等)、

(e)法律費用、および

(f)政府機関に対する諸料金の支払等

から成る。当該固定資産の支出をまかなうための間接費、たとえば、引受手数料、特殊な広告等に関する費用等を含む債券の発行費用は含めない。(かかる費用は、たとい支出を行った企業がこれを資本支出として計上している場合でも、費用の発生した会計期間中の中間消費として扱うのが適当である)。









1−D.粗資本形成

1−D−b.定義上の問題



注文生産の重機械、構造物、その他の建設で、建造完成に相当の期間を要するものについては、これを在庫品の増加とするか粗固定資本形成に含めるかの問題が生ずる。家畜に関しても、同様である。

「当該資産の所有権が購入者に移り、かつ購入者がこれを使用する状態になった時点で当該資産を固定資本形成として記帳する」という原則に立てば、この種の資産が未完成の間は生産者の在庫品に含めることになる。ただし、企業会計では必ずしも上述の記帳方式をとっていない。そこでSNAにおいては、建設、重機械等の仕掛品のために、在庫品増加に特別の項目を設ける。









1−D.粗資本形成

1−D−c.固定資本形成と中間消費の定義上の相違点



中間消費と総資本形成との根本的な違いは、商品が会計期間中に使用されると考えるか、将来に便益をもたらすと考えるかによって生ずる。ただし、再生産不可能な有形資産の売買(たとえば、土地、埋蔵鉱物、新たに制作されたものでない美術品など)、立木、農作物の自然成長は、粗資本形成に含まれない。









1−D.粗資本形成

1−D−d.軍事施設



軍要員の舎宅(兵舎を除く)の建設と変更とに関する一般政府の支出は、総固定資本形成に分類される。舎宅と兵舎との区別は、提供される住居の種類によって行う。すなわち、一般に賃貸される住居と同様な設備をもった住居は舎宅であり、固定資本形成に含まれる。軍隊の使用のために建設される学校、病院、飛行場、通路等は、これらの施設が民間の使用に転換される可能性がある場合でも、中間消費に分類される。同様の取扱いは、軍事目的に使用する自動車にも適用される。

これらの施設等が、その後民間の使用に切替えられた場合には、固定資産の残高増加として計上され、その価額の評価は転換が行われた時点の市場価格で行われる。(その対応取引は、一般政府サービスの中間消費の減少として記帳される。)軍事用の学校、病院、自動車等が民間使用に切替えられた場合も、同様に固定資本形成に計上すべきである。









1−D.粗資本形成

1−D−e.資本的修理と経常的修理



固定資産の破損を修理する費用は、固定資産の耐用年数を延長したりその生産性を増加するための支出(すなわち、資本的な修理費)とは区別される。資本的支出には、しばしば、固定資産のうち相当ウエイトの高い部品の変更や追加交換等を行うための諸費用が含まれる。

部品代金を資本形成に分類するか否かの基準は、支払の対象である部品の耐用年数が1年以上であり、かつその部品の交換ないし追加により当該固定資産の耐用年数が相当程度延長されるか、もしくはその性能・生産量を相当程度高めるものであるかどうかにおかれる。(たとえば、トラックのタイヤ、圧縮機ないし施盤の鋳型、刃、x断部品の交換、住宅のペンキの塗替えないし飾り替え等は、資本形成ではない。これに対して、トラックのエンジンの完全な交換、圧縮機および施盤のモーターの交換、住宅の部屋の増築等は資本形成に計上される。)









1−D.粗資本形成

1−D−f.開発のための支出



開発のための支出、すなわち、土地の整備、鉱物および石油の採掘に必要な坑所の準備・拡張、灌漑工事、井戸掘、養魚池の建設と最初の放魚、新しい植樹園の土地整備と苗付け、新しい果樹園の開発と苗付け、ゴムの木の苗付、その他苗付けから数年たたないと果実ないし樹液がとれない植物の植付け等は、資本形成と見なされる。









1−D.粗資本形成

1−D−g.構築物



住宅ならびに工業用・商業用建物の建設については、使用される状態になるまでのこれら構築物に対する支払額――ただし、整備費以外の土地代金を除く――は、すべて固定資本形成に計上される。

住宅を例にとると、内外の塗装、備付けストーブ等の永久的な備品、セントラル・ヒーティング、水道施設、その他住宅を賃貸する場合通常備える必要のある備品に対する支出は、すべて固定資本形成に計上される。これに対して、家具や世帯道具類に対する支出は、固定資本形成には計上しない。

既存の構築物の内外の塗装、古くなったりまたは破損した樋、水道具、ボイラー、スチーム・パイプの修理・交換は、中間消費に計上されるべきである。賃貸住宅の経常的修理、維持に必要な支出は、家主が支払った場合は経常支出に含めるが、店子が支払った場合には家計消費支出に計上する。持家住宅の場合、この種の支払は、産業部門である「住宅の所有」の中間消費に計上すると同時に、帰属家賃の一部として家計の最終支出に計帳される。

住宅、その他の建物が中古品として売買された場合は、構築物の価格、移転コストのみを固定資本形成に計上する。取引価格に含まれる土地の値段は、資本調達勘定に特別のフローとして記帳される。









1−D.粗資本形成

1−D−h.粗固定資本形成の分類



粗固定資本形成は、所有者の経済活動ないし固定資産の種類別に分類される。

(1)住宅用建築物

全面的にまたは主として住宅用に建てられた完成建築物(造成費を土地代金と区分して推計し得る場合は、造成前の土地代金を除く);住宅用建築物の大規模の改造および改良;既存の住宅用建築物の購入に要した取引費用(所有権移転のための費用ないし類似の費用、以下同様)。

この項目には、新しい建築物の内外塗装費および炉、ストーブ、暖房装置、エア・コンディション装置、水道装置、および居住に先立って通常備えられる備品類の価額も計上される。ホテル、モーテル等、純粋に一時的な宿泊のために運営される建築物は非住宅用とみなす。

(2)非住宅用建築物

全面的にまたは主として産業用および商業用に建てられた完成建築物および構造物;非住宅建築物の大規模の改造および改良;既存の非住宅用建築物購入について要した取引費用。

この項目には、工場、倉庫、事務所、店舗、料理店、ホテル、農業用建築物(馬小屋、納屋など)、および宗教、教育、娯楽等の目的のための建築物の建築;さらにこれらの建築物と不可分な備付け家具および備品の費用も計上される。

(3)その他の建設(土地の改良を除く)

非軍事目的の工事、たとえば鉄道;道路、街路、下水道;橋、高架橋、地下鉄およびトンネル;港湾、桟橋およびその他の港湾設備;自動車駐車設備;空港;導管、油井および鉱坑;運河および水路;水力設備、灌漑や治水事業の一部を構成しないダムおよび堤防;水道管;排水施設および衛生施設;競技場;電気回送線戦;ガス供給用本管およびガスパイプ;電話線および電信線等。

この項目には、建築用地の地盛り、地ならしおよび必要な街路および下水道工事の費用が含まれるが、建築の開始時点に行われる敷地内の土台工事の費用は含まれない(この費用は、1.の住宅用建築物または2.の非住宅用建築物の項目に計上する)。この項目に属する既存の諸設備の購入に伴う取引費用も含まれる。

(4)土地改良と農園および果樹園の開発

[4.1]土地改良

すべての土地の開墾および開拓(土地の有効面積がこれにより増加するか否かは問わない);灌漑工事、治水工事および灌漑、治水をその目的の一部とするダムおよび堤防工事;森林の開拓および植林;土地、鉱業権、森林、漁業権等の取引費用。

[4.2]農園、果樹園およびブドウ園の開発

新設する果樹園およびゴム農園ならびに新しく植える果樹および駅樹で、その生産物が得られるまでの期間が1年を越えるものについての、生産物が得られるまでの植付けおよび栽培費用等。

(5)輸送機器

完成した船;飛行機;鉄道および電車車両;路上牽引トラクター、トラック、移動運搬車および類似のもの;産業、一般政府機関および民間非営利団体が取得ないし処分する(非軍事目的の)自動車、二輪および四輪の荷車;上記の種類に属する既存の輸送機器の大規模の改造ないし改良;この種の中古資産の購入(売却)に関する取引費用。この項目には、軍事的目的の輸送機器は含まれない。

(6)機械およびその他の機器

[6.1]農業用機械

農業機械および刈入れ機、脱穀機、すき、まぐわ、その他の耕作に使用する器具およびトラクター(路上牽引用を除く);これらの機器の大規模の改造および改良;この種の中古機械および機器の購入に要した取引費用。

[6.2]その他

動力機械;事務用機械および器具;金属工作機械;鉱業用;建設用およびその他の産業用機械;起重機、フォークリフトおよび類似の機械;耐久コンテナー;専門家用機械器具;ホテル、下宿屋、非営利団体、一般政府等向け家具、備付け家具および類似の耐久財;産業、一般政府、民間非営利団体の購入する新規に制作された美術品;上記の各種の機械、機器および備品の大規模の修理および改良;この種の中古資産の購入に関する取引費用。

なお、手工具類、少額の事務用卓上器具等、経理手続上経常費として取扱う習慣になっている場合には、実際的見地からこの項目には計上しない。

(7)種畜、荷車用の動物、乳牛等

種畜、荷車用の動物、乳牛および毛を刈るために飼育する羊、ラマ等;上記の目的のためにこれらの動物を購入(販売)するための取引費用。









§1.財貨サービスの供給および使用


1−E.財貨サービスの輸出および輸入



輸出および輸入は,居住者たる経済主体と海外部門との間の財貨ならびに要素外サービスに関する取引である。これらの取引は、原則として、財貨の所有権の移転の時点、またはサービスが供給された時点で記録される。

外国貿易統計は、財貨サービスのすべての輸出入を網羅する訳ではないので、国民勘定の目的にかなうように、これらのデータを補足する必要がある。第4表には、SNAが使用する輸出入のカテゴリーを定め、各カテゴリーの定義と取引の評価方法とを示した。同表は、外国貿易統計と国際通貨基金の国際収支提要との間でできるだけ一貫性が保たれるようにしてある。

「商品の輸出および輸入」という項目の定義は、外国貿易統計における通常の貿易の概念と基本的に一致している。この一般貿易の概念を採用するのは、このカテゴリーと国際収支提要のこれに対応する分類とをできるだけ整合的なものにするとともに、外国貿易統計における輸出入のカバレッジとできるだけ統一を保つためである。

「商品の輸出および輸入」という項目を外国貿易統計の一般貿易の範囲と一致させたために、国際収支提要の商品貿易の定義とは若干相違することになった。(たとえば、政府が、海外において購入した財貨を他の外国で使用する場合。この取引は、国際収支提要では商品貿易のカテゴリーとして記帳されるが、SNAにおいては「一般政府による海外における直接購入」のカテゴリーに計上される。)

外国貿易統計の場合と同様、輸出は、f.o.b.価格――すなわち、輸出国の通関地点での(通関までの輸送、荷上げ等のコストを含んだ)財貨の市場価格――で計上される。輸入は、c.i.f.価格――すなわち、輸入国の税関渡しの価格から荷おろし等の費用を除いたもの――で記帳される。財貨に賦課される輸入税や輸入財貨にあたえられる補助金は、フローの額としては計上しない。輸品のc.i.f.価格には、居住者ならびに非居住者たる生産者に支払われる運賃と保険料とが含まれているが、これらの額は別記しておく。輸入にはc.i.f.価格を使用するので、「運輸保険サービスの輸出」というカテゴリーには、商品の輸入に際して居住者たる生産者(運輸保険サービス業者)が提供したサービスも含まれるわけである。












*4

U.N. Statistical Office.1961.Standard International Trade Classification,revised,series M,No.34.