LTES問答


聞き手 尾高煌之助


アジア統計制度の問題点

●小菅伸彦氏・根本 博氏に聞く

尾高 アジア圏の統計制度について、どのような感想をおもちですか。

小菅 戦後のインドネシアの統計システムは、国際通貨基金(IMF)や世界銀行(IBRD)の指導で整備されたので、ずいぶんしっかりしています。もちろん、末端の現場でどれだけきちんと調査できているかという問題はあるかもしれませんが。

根本 タイの戦後統計は、しばしば作成方針が変更になります。担当者が変るごとに方針が変るからです。いろいろなプログラムが盛り沢山ですが、その優先順序もよく改定されます。
 新SNA(1968年)を導入するプランがあって、一時期ずいぶん熱心でしたが、結局立ち消えになりました。今度はそれを飛び越えて、1993年のSNAを採択する予定だそうですが、うまくいくかどうか分かりません。
 農産物などの生産データはありますが、分配や支出面の統計は弱いですね。

小菅 インドネシアの場合、IO表があるから、そのベンチマーク年をおさえれば水準で大きく間違うことはないでしょう。
 ただ心配なのは、コモ法で推計するパッケージ・プログラムを使っているので、パッケージが固定化して実態からずれているのに気がつかないでいる、というたぐいの問題があるかもしれません。

尾高 1950年代や1960年頃の経済統計がどのように作られたか、どのくらいの精度があるかを、担当者などに会って確かめられるとよいと思います。

小菅 財政難に見舞われた途上国では、海外借款が必要だったので、結果として国際機関のガイド・ラインに沿って統計を集めざるをえなくなったのだと思います。インドネシアはその意味では優等生ですね。当時、統計の作り方を実際に指導した専門家や、IO表の作成に携わったアジア経済研究所のスタッフに聞けば、現場の事情が明らかになるかもしれません。
 これに対して、中近東の石油産油国では、統計が整備されていないところが多く、統計データが貧弱です。国家財政が豊かなので国際機関のやっかいになることも少なく、結果として統計制度を改善するきっかけもなかったのでしょう。

根本 海外経済協力基金(OECF)にいたころ経験したのですが、インドは州政府の力が強く、膨大なデータを持っています。これらの地方統計情報をどう活用するか、それをマクロ統計として過去に溯ってどうまとめてゆくか、は大きな課題でしょう。地域別にまとめる方がよいかもしれません。

尾高 それは多分、私たちよりも後の世代の仕事ですね。

小菅 途上国では、地域や階層が違えば、同じ商品でも価格はさまざまで、集計量だけで簡単に判断できないという問題がありますからね。

尾高 ところで、私たちのプロジェクトでは、その基準に1968年SNAを使おうと思っているのですが・・・・・。

小菅 それでよいと思います。1993年SNAには、所得移転、情報化、多国籍企業などを重視する新しい特徴があります。低開発国の事情には特別の配慮を払ったとされています。しかし、応えるべきデータがないことも多く、確定できないところがまだたくさんあります。

尾高 私たちのプロジェクト全般についての印象をお聞かせください。

根本 従来は、地域の分析は地域研究家に任せるのが一般でした。その地域に関わることは、一人で何でもやったのです。
 ところが最近は、財政や金融など特定分野の専門家が、地域についてはまったく素人でも、地域に関わる分析を求められる場合が多いようです。同じ意味で、このプロジェクトは、それぞれの専門家に地域のことを知ってもらういい機会になると思います。

尾高 私たちのプロジェクトも、地域については素人の専門家集団という側面があります。その特徴を生かして使えるとよいと思います。

小菅伸彦氏は経済企画庁調査局審議官、1996年度本プロジェクト諮問委員。
 根本博氏は経済企画庁経済研究所国民経済計算部長、1997年度本プロジェクト諮問委員。

(1997年3月21日、於経済企画庁調査局審議官室)