LTES問答


聞き手 尾高煌之助


国際比較とデータ著作権問題

●黒田昌裕教授に聞く

黒田 私たちも国際IO表プロジェクトをやっています。

尾高 何カ国が対象ですか。

黒田 13カ国です。アメリカ、英国、フランス、ドイツ、中国、台湾、韓国、フィリピン、マレーシア、シンガポール、インドネシア、タイ、それに日本。そちらのプロジェクトと部分的に重なっていますね。

尾高 時系列的に追いかけるのですか。

黒田 1975、80、90、の3カ年のIO表を、それぞれ横に比較するのです。

尾高 標準部門分類が必要ですね。どのくらい詳しい分類を使うのでしょうか。

黒田 共通分類表は183×183です。日本のIO基本分類を使います。まず、2カ国間の比較表(bilateral table)を作り、次に多国間比較表に拡張してゆきます。13カ国間の比較をするときには、24×24分類になってしまうのですけれど。

尾高 政策分析にも使えますか。

黒田 実質表を作るのが最大のポイントで、それができた暁には政策的な分析もできるでしょう。実質表を作成するための多国間生産デフレーター(一種のPPP: Purchasing Power Parity)を作るのに苦労しています。
それと、エネルギー統計も含みます。

尾高 意欲的だなぁ。

黒田 COEプロジェクトと、部分的にでも連結(リンク)できるとよいですね。
ところで、そちらでは成果の公開はどうする予定ですか。

尾高 出版と、インターネットを介しての公表とを考えています。

黒田 日本ではインターネットの著作権の考え方がはっきりしないのが悩みですね。

尾高 もう、何か問題が起きましたか。

黒田 KEO(Keio Economic Observatory)プロジェクトで作った日本の産業連関表をインターネットに載せてあるので、一日に30件ほど引合いがあります。各方面からいろいろな注文が来ます。
目的がはっきりしている研究者の方には無料で提供していますが、変な使われ方をされると、データを作る側の意欲を殺ぐことになりかねません。
尾高 どのような心配がありますか。

黒田 たとえば、正しくない使い方をしておかしな結果を出すとか、もともと完全競争の仮定のもとに作ってあるデータなのに、それを使って完全競争を証明しようとするとか・・・・・。

尾高 それは、使用する人の問題で、作った側の責任ではない。そういうことが起こるのは、ある程度やむを得ないのじゃないかなぁ。

黒田 でも、おかしな結果が出たのをデータのせいにして、このデータは信用できないなどといわれたりすると、作った側はがっかりしてやる気がなくなります。

尾高 料金徴収の問題もありますね。

黒田 どのような方法で徴収するにしても面倒だけど、専任の担当者をおけば出来ないことはありません。料金をとれば利用者も心して使うでしょうし、データの有難味を痛感するようになるかもしれない。

尾高 文部省の意見では、国立大学でも料金をとることはできるようです。でも、大学の事務は煩瑣になる。

黒田 それに、いったいどの程度の付加価値があるとするのか、判断が難しい。データのどの部分に著作権があるのかも、判然としません。

尾高 原資料が政府の公的統計だとすれば、材料は公共財だものね。

黒田 それから、公開するといってもどこまで公開するのか。われわれの場合だったらIO表の最終結果だけを出すのか、それとも中間の推定過程とか原系列までをも公にするのか。

尾高 さしあたりは、最終成果だけでよいのではありませんか。

黒田 私もそう思います。

尾高 でも、推計方法とか推計値の性格については、できるだけ必要十分な解説をつけたいものですね。

黒田 最近出版した『KEOデータベース――産出および資本・労働投入の測定――』(黒田 昌裕他著、慶応義塾大学産業研究所、1997年2月、非売品)は、その趣旨も兼ねあわっせて作ったマニュアルのつもりです。ちなみに、文章情報をあわせてインターネットに載せることは十分可能です。

尾高 研究者だったら、最終結果だけでは満足しないでしょう。

黒田 その場合は、統計が必要な理由、目的などを添えて申請してもらい、審査のうえ、「よし」となってから利用してもらうのはどうでしょうか。

尾高 なるほど。でも、受付ける側の手間がちょっと大変だなぁ。

黒田 先ほどの料金のこともあるので、完成したデータベースの管理と利用とは、一括して民間のシンクタンクとか第三セクターに委託するのもよいと思います。

尾高 それはいいかもしれない。その場合、データベースの保守管理(maintenance)をどうしますか。

黒田 そこが一つ問題です。政府や調査機関とは違って、研究者は同じトピックをいつまでも継続してやるわけではないから。

尾高 委託機関に窓口になってもらうのだったら、入れ替わり立ち代わり違ったテーマで続けられるプロジェクトの中から、経常的にデータベース運営費を拠出することはできるでしょう。学術情報センターとの関係はどうなるのかな。

黒田 解決すべき問題はいろいろあるにしても、なにか工夫は出来そうですね。

*黒田昌裕氏は慶応義塾大学商学部長、1996年度本プロジェクト諮問委員。

(1997年4月1日、於慶応義塾大学商学部長室)