貿易統計における商品分類体系



岳 希明

深尾京司(プロジェクト幹事)



貿易構造が各国間でどのように異なるのか、また過去にどのように変化してきたのかを知るためには、国にまたがって、また時間を通じて、同一の商品分類で貿易統計を作成する必要がある。国際比較可能な貿易統計作成のため、また関税賦課の便宜のため、各国の貿易統計における商品分類を標準化する努力が昔から国際機関等によりなされてきた。アジア長期経済統計データベース・プロジェクトの貿易班では、アジア諸国の商品別輸出入額、商品別輸出入価格指数の長期統計を作成するにあたり、商品分類体系として国連の『標準国際商品分類』(Standard International Trade Classification, SITC)の改訂第一版(SITC Rev.1)を採用することにした。


1.貿易統計商品分類国際標準化の歴史1)

現在の代表的な商品分類国際標準体系としては、国連のSITCと関税協力理事会の『関税協力理事会品目表』(Customs Cooperation Council Nomenclature、CCCN)の2つがあげられる。

国連のSITC(1950年)は、国際連盟が1937年に発表した『貿易統計のための最少品目表』(Minimum List of Commodities for International Trade Statistics)をベースに作られた。この貿易分類は、SITCオリジナル(SITC Origin)と呼ばれている。

それ以来、SITCは1960年に改訂第1版(SITC Rev.1)、1975年に改訂第2版(SITC Rev.2)、及び1985年に改訂第3版(SITC Rev.3)と改訂が重ねられた。そのつど、それを貿易統計の基準とするよう、国連の経済社会理事会は加盟国に勧告を出してきた。SITCの各改訂版に関する主要な情報をにまとめておく。

一方、税関手続きの簡素化、標準化のために関税協力理事会が作成した品目表がある。関税協力理事会は、税関手続きの簡素化及び標準化を目標に、OECDの前身である欧州経済協力機構(OEEC)により1952年11月に設立され、1955年に、関税協力理事会品目表の原型ともいえるBTN(Brussels Tariff Nomenclature)を初めて発表した。それ以来、関税協力理事会品目表は2回にわたって改訂され、1977年にCCCN、1983年にHS(Harmonized Commodity Description and Coding System――商品の名称及び分類についての統一システム)がそれぞれ発表された。

2つの体系のうち関税協力理事会の品目表は、関税率表としての利用を考慮した形式で作成されており、同じ原材料の商品は同一の部や類に分類される傾向がある。これに対してSITCでは、同じ原材料の商品でも加工段階に応じて1桁目から分類コードが異なり、経済分析に利用するのに適している。2)


2.SITC Rev.1に関して

既に述べたように、SITC Rev.1は、SITCの歴史の中で比較的に早期(1960年)にできたものである。われわれがこのバージョンを貿易商品分類の基準とするのは、統一基準で戦前・戦後にわたる長期データをコンパイルするという必要性からである。戦前・戦後を通じて、各国の貿易商品の構造が大きな変化を遂げたことを考えれば、戦前の貿易統計の作成のために、その時期(またはそれに近い時期)に設定された貿易商品の分類、例えば、国際連盟が1937年に発表した『貿易統計のための最小品目表』、またはSITC Origin及びBTNを採用することが合理的であろう。これに対して、戦後のそれを作成するためには、比較的最近に発表されたSITC Rev.3またはHSを使用することが当時期の貿易商品の構造に適応する。しかし、われわれは、戦前・戦後を通した長期統計を統一した分類基準に基づいて作成することを目指しているので、貿易分類は1960年のSITC Rev.1におくことにした。

に示されるように、SITCはSITC Orig.においては4桁分類に当たる細分類(Subgroup)が存在しなかったことを除けば、一貫して5桁までの分類構造を採っており、1桁目の大分類における項目数は10に保たれてきた。ただし、その下の細かい分類の項目数は増える一方である。SITC Rev.1においては、大分類、中分類、小分類、細分類及び細細分類の項目数は、それぞれ10、56、177、625、1312 である。われわれの予定では、貿易のデータは原則として中分類までコンパイルする予定であるので、最終的に貿易商品の項目数は56となろう。ここでSITC Rev.1における大分類を示しておこう。3)

  第0部 食料品及び動物
  第1部 飲料およびたばこ
  第2部 食用に適しない原材料(鉱物性燃料を除く)
  第3部 鉱物性燃料、潤滑油その他これらに類するもの	
  第4部 動物性または植物性の加工油脂およびろう	
  第5部 化学工業生産品
  第6部 原料別製品
  第7部 機械類および輸送用機器類
  第8部 雑製品
  第9部 特殊取扱品


貿易商品における二つの国際標準分類のいずれにおいても、“分類”が、どのような基準に基づいて行なわれているかの詳しい説明は、SITCに関する国連の文献にも、または関税協力理事会品目表に関する文献にも欠けている。このことはわれわれが貿易分類を理解するための障害となっている。


3.貿易データをコンパイルする際の問題点

SITC Rev.1に基づいて、戦前・戦後を通した長期の貿易のデータを実際にコンパイルする際に起こると思われる問題点とその解決策を以下に述べる。


  細かさと粗さとの調和

ある時期における貿易統計は、その時期に重要な貿易商品については細かいが、逆の商品については粗く分類する傾向がある。われわれの貿易統計においては、各時期における重要商品とその当時の貿易と統計の整備度合に応じて、同じ項目に対して、上記の基準分類よりも細かい分類と粗い分類とを併用することになろう。


  戦後における貿易分類間のコンバータ
戦前期に関しては、各国貿易分類の標準化があまり進んでいなかったため、各国の特有な貿易分類をSITC Rev.1に組み替える作業が必要となる。

戦後については、国連に報告された各国の貿易統計のほとんどは、国連のSITCか関税協力理事会の関税協力理事会品目表かのいずれかに準拠して分類されている。国連のSITCと関税協力理事会品目表の改訂前後の分類コードの対応、及び国連の分類と関税協力理事会の分類との対応ははっきりしているので、SITC Rev.1と異なる分類でコンパイルしたデータは、対照表を用いることによって、それをSITC Rev.1 に組み替えることが可能である。


<参考文献>

Yates, P. Lamartine(1959)Forty Years of Foreign Trade、 London: George Allen & Unwin LTD.

山本泰子(1995)「貿易統計における商品の分類」木下宗七・野田容助編『世界貿易データシステムの整備と利用』、I.D.E. Statistical Data Series No. 67, アジア経済研究所。


(Yue Ximing 日本学術振興会外国人特別研究員・ふかお・きょうじ 一橋大学経済研究所助教授)